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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.06.11[22:51]
「アリシュア様っ!」
 アガシャも覚束無い足取りで彼女を追う。
 二人は衛兵たちが行き交う回廊に飛び込んだ。
「――グレスティ将軍、ご帰還! グレスティン将軍、ご帰還!」
 回廊の何処かで、衛兵が切羽詰まった声を張り上げている。
 その報告は、アガシャとアリシュアの肝を震撼させた。
「待ちなさいっ!」
 走り回る衛兵の一人をアリシュアが強引に腕を掴み、引き止める。
「邪魔だ、どけっ!」
 衛兵が鬱陶しげにアリシュアの腕を振り払おうとする。
 アリシュアは頑なにその手を離さなかった。
「わたくしが、待ちなさい、と言ってるのよっ!」
 普段の優しい声とは格段の差がある厳しい口調で、衛兵を怒鳴りつける。
「あっ……アリシュア様!」
 ようやく衛兵は、自分を呼び止めた人物が誰だか悟ったようだった。
「ご無礼、お許しを!」
 緊迫した表情で衛兵は頭を下げる。
「そんなことは、いいのよ!」
 畏まる衛兵をアリシュアは鋭利な視線で睨めつける。
「グレスティ将軍が帰還した、と言ったわね? 『グレスティ将軍』が戻ってきたのね?」
 将軍の名を強調するようにアリシュアはきつく問い質す。
「はっ、はい」
 衛兵の返答を聞いた瞬間、アリシュアの瞳が大きく見開かれた。
「……グレスティ将軍だけなのね? ローレン様は? ――ローレン様はどうしたの!?」
 責めるようなアリシュアの詰問に、衛兵はたじろいだようだった。
「ローレン様はっ!?」
 アリシュアは悲鳴に近い声で叫んだ。
「……ロ、ローレン王太子殿下は――」
 アリシュアが執拗に迫ると、衛兵はやっとのことで重い口を開いた。
「――戦死なさいました」
「――――!?」
 告げられた瞬間、アリシュアは声もなく衛兵を凝視した。
 衛兵を掴む腕から力が抜け落ちる。
「な、なんということじゃ……」
 アガシャは落雷にでもあったかのように硬直し、その場に固まっていた。
「……キール国王ギル・ハーン陛下、王妃リネミリア様、王太子ランシェ殿下戦死……。第二王子アイラ殿下、消息不明。生死確認できず――」
 立ち尽くす二人の耳を、無慈悲な衛兵の戦況報告が通り抜けてゆく。
「……陛……下……。王妃様……殿下――」
 アガシャの口から乾いた呟きが洩れる。
 しかし、衛兵の報告はまだ終わりを告げない。
「キール城陥落――キール国滅亡」
 抑揚のない声が、現実からアガシャを遠ざけた。
「……姫様……姫様っ……!」
 アガシャは力なく床に崩れ落ちた。
「姫様……どうか姫様だけは――姫様をお護り下さい、エルロラよ……!」
 瞬きもせずに見開いた双眸から、熱い液体が溢れ出す。
『絶望』という名の暗い深淵が、目の前で大きく口を開いたような気がした……。


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