ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 アダーシャの遊郭は、いつも通り華やかな夜を迎えていた。
 通りの至る所で、艶やかなドレスと化粧で身を引き立てた娼婦たちが男たちに声をかけ、とびっきりの笑顔を振りまいている。悩ましくも、活気の溢れる光景だ。
 酒場へはひっきりなしに客が出入りしていた。地元のならず者から裕福そうな旅客まで、多種多様な人々で雑然としている。
 時折、見目麗しい青少年を連れた男たちが足早に宿屋へと吸い込まれてゆく。
 呪い、占いを商いとする妖しげな露店も数多く立ち並んでいた。
 生け贄として選ばれたサーデンライト公爵マイトレイヤーがマイセ神殿へと連行されてから、既に五日が経過している。
 だが、この秩序皆無に等しき乱れた世界では、表で何が起ころうが全く関係なかった。
 街は、毎夜と変わらぬ妖冶な享楽と饗宴に耽っていた。


 様々な騒音や下卑た悪口雑言が飛び交う中を、少年は颯爽と歩いていた。
 歩を進める度に、豪奢な金色の髪が揺れる。
「――よお、クラリス!」
 突然後ろから抱き竦められ、少年――クラリスは驚いて足を止めた。
 顔を振り向けると、しつこく自分につきまとう褐色の肌の男が至近距離で笑っていた。
「今まで何処へ行ってたんだ? ……なあ、ちょっと遊んで行こうぜ。すっげぇ媚薬を手に入れたから、愉しませてやる。久し振りにヤらせろよ?」
 男がクラリスの耳元で熱く囁く。クラリスを抱き締める腕にじんわりと力が加わった。
 クラリスは内心で激しく舌打ちを鳴らし、困ったような上目遣いで男を見つめてやった。男の喉がゴクリと上下する。
 男をからかうのはそこそこ楽しいが、生憎今日は遊びに来たわけではないのだ。男にはさっさと退散してもらうしかない。
「――嫌だよ」
 ニッコリ微笑んで男を拒絶し、顔を背ける。
 そのまま男の腕を引き剥がそうとして――クラリスは、ふと思い留まった。慌てて顔を男の方へと戻す。
「ねえ、即死する毒って持ってない?」
「即死する毒、ねえ……。何に使うのか知らねぇが、急ぐんなら無理だな。麻薬・媚薬の類なら手に入れるのは簡単だけど――劇薬は時間がかかる」
 男が渋い表情で応える。
「ふーん、残念だな。それじゃあ、即効性のある睡眠薬は?」
「ああ、それなら今、持ってる」
「ソレ、僕に売ってよ」
 クラリスがそう告げると、男の双眸に意地の悪い光が浮かんだ。
「いいぜ。おまえの頼みなら喜んで売ってやる」
 男の片手がクラリスの髪を撫で、もう一方の手が太股から臀部の辺りを這いずり始める。
「急いでるから、今夜は絶対にしないよ。――で、代金は?」
 身体のあちこちを男が愛撫する。クラリスは仕方なくそれを許し――だが、寝る意志はないことだけはきっぱりと前置きしておいた。今夜は何事にも変えられない大切な仕事があるのだ。男に時間を割いているわけにはいかない。
「急いでるのかよ? じゃ、大負けに負けて――キス一つ」
 男の提案にクラリスは一瞬、顔をしかめてしまった。
 が、これも必要経費――と割り切ることに決め、コクンと頷く。
 どうしても薬がほしい。
 男が白い包みをクラリスの手の中へ押し込む。そのままクラリスの手を強く握り締めると、空いている方の手でクラリスの顎を掴み、強引に上向かせた。
 直ぐさま、男の唇がクラリスのそれに覆い被さる。
「――んっ……」
 歯を綴じ合わせる暇もなく、舌を挿し込まれた。
 男の舌が口内を蹂躙する。
 長い長い接吻の末に、男はようやくクラリスを解放した。
 満足したのか、男がアッサリとクラリスから離れる。
「ありがとよ、クラリス。次はもっと派手にやろうぜ。いや、用事が済んだら戻ってこいよ。声が嗄れるまで啼かせてやるから。――じゃあな!」
 男はヒラヒラと片手を振りながら、人の渦の中へと姿を消してゆく。
「……どうして僕が、おまえなんかのために啼かなきゃいけないんだよ。僕を本気で喘がせようなんて、図々しい男だな」
 クラリスは男の姿が見えなくなったのを確認すると、手の甲でごしごしと唇を拭った。
 ――絶対に戻るもんかっ。
 胸中で吐き捨て、クラリスは再び足を動かし始めた。
 急ごう。
 心の裡から決意を燃え立たせる衝動が突き上げてくる。
 クラリスは己を急き立てる心に忠実に、地を蹴って駆け出した――



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2009.06.13 / Top↑
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