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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.13[17:21]
 不快な感覚がフッと途切れる。
「――着いたぞ」
 シンシリアの声が耳朶に触れた。
 クラリスはホッと安堵の息を吐き、身体の力を抜いた。シンシリアから手を離しながら、辺りを見回す。
 どうやら建物の内部にいるようだった。
 弓形を描く高い天井や細かい彫刻が施された円柱――回廊も壁も全て青みがかった大理石で造られている。贅を尽くした建築様式だ。
「着いたって――何処に?」
「リージャナータ宮殿。面倒臭いから空間移動した」
 シンシリアが事も無げに告げる。
 伊達に《魔法剣士》の称号を得ていた訳ではないらしい。空間と空間を繋げて自在にそこを往き来することは、きっと彼にとって歩く行為と同じくらい造作もないことなのだろう。
「俺は、これから神殿へ行ってマイトレイヤーを取り返してくる。おまえは国王を始末しに行け。二時間後に裏の城門で待ち合わせだ」
 シンシリアは一方的に指示を出し、再び呪文を唱え始める。
 クラリスは慌ててシンシリアの腕に飛びついた。
「ちょっ、ちょっと待って! 国王を殺すと言っても方法が――」
 狼狽の眼差しでシンシリアを見上げると、彼は意味深にニヤリと口角をつり上げた。
「遊郭で強力な睡眠薬を買っただろう――その唇と引き替えに」
「……見てたの? ホント、悪趣味だなぁ」
 クラリスは掴んでいたシンシリアの腕を乱暴に放すと、思い切り唇を尖らせた。
 察するに、シンシリアはかなり早い段階でクラリスを発見したが、わざと声をかけずに動向を窺っていたのだろう。クラリスが男に唇を奪われるのも賭の景品にされるのも――単純に『面白いから』という理由で放置し、クラリスが焦燥する様を眺めて密かに愉しんでいたに違いないのだ。
 俗悪な趣味――としか言えない。
 だが、シンシリアは不機嫌なクラリスを全く意に介さず、スッと耳元に唇を寄せてくるのだ。
 微かな笑いを含んだ声が、クラリスの耳に国王暗殺の手順を吹き込む。
 聞いているうちに、クラリスますます不愉快になり、渋面を作った。
 シンシリアが示した暗殺手段は、クラリスにとっては少々――いや、かなり不本意で気に食わないものだったのだ。しかし、彼の推測通りに事を運べば、クラリスでも楽に国王の生命を奪うことが可能であることも確かだった。
「……解りました」
 不承不承に首肯する。
「では、決まりだな。王の寝室は二階の突き当たりだ。――失敗するなよ。では、二時間後にまた逢おう」
 言いたいことだけを勝手に並べ立て、シンシリアは歪めた空間の中へとさっさと姿を消してしまう。
 クラリスは大仰に溜息を吐くと、渋々と身を翻した。
 首飾りなどの装飾品を正し、髪を手櫛で整える。
 王宮の仕来りなど、セイリアで嫌というほど叩き込まれて育った。何より自分は、小国ではあるが紛れもなく王族の一員だ。それなりに気品と威厳を醸し出しているはずだ。大国アダーシャの宮殿に勤める優れた従者たちでも、パッと見ただけではクラリスが王宮の者ではないことに気づかないだろう。
 クラリスは凛然と面を上げ、颯爽と歩き出した。
 目指すは、国王レノビアの寝所だ。



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Category * 黄昏の宝玉
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