ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 豊かな黒緑の髪が揺れる。
 クラリスの腕を掴んだのは、一人の少女だった。
 蒼い瞳の美少女。
 その印象的な深い蒼色と整った顔立ちを一目見た瞬間、『誰かに似ている』とクラリスは思った。だが、考えを巡らせる間もなく、少女はクラリスをグイグイと乱暴に引っ張るのである。
「何、ボーッとしてるのよ? さっさと来なさいよ! 罪人として処刑されたいわけ!? 死にたくないなら、ボケッとしてないで行くわよっ!」
 半ば呆けている状態のクラリスに向かって、少女が慈悲の欠片もない金切り声を浴びせてくる。
 クラリスがハッと我に返ると、少女は壁にかけてある巨大なタペストリーを巻き上げているところだった。
 タペストリーの後ろに現れたものは、人一人が潜り抜けられるくらいの大きさの扉だった。
 少女が躊躇うことなく、扉を押し開ける。扉の向こうは、薄暗く狭い通路だった。
 どう考えても秘密の通路である。
 少女は強い力でクラリスの腕を引くと、有無を問わずにクラリスを通路の中に押し込んだ。自らも通路に足を踏み入れ、内側から素早くタペストリーを元通りに戻す。
 扉を閉め、胸元から取り出した鍵で施錠すると、少女は改めてクラリスに向き直った。
「シャンとしなさいよ!」
 薄闇に包まれた通路の中でも、少女の蒼き双眸が苛烈に輝いているのが解った。
「人一人、殺しただけじゃない。そんなの、この国の貴族世界じゃ日常茶飯事よ。たまたま相手が国王だっただけじゃない」
 ブツブツと呟く少女を、クラリスは見開いた目で凝視した。
 こんな美少女から過激な言葉が生み出されたことにも驚いたが、少女が自分の凶行を知っていることの方がクラリスを仰天させたのである。
「な、何で……知ってるんだよっ!?」
「うるさいわねぇ。そのうち解るわよ」
 少女が鬱陶しげに眉根を寄せる。
「どうして僕を助ける? そもそも――誰なんだよ、おまえっ!?」
 クラリスが尚も質問を繰り出すと、少女は大仰に溜息をつき、如何にも渋々といった感じで口を開いた。
「顔が好みだったから」
「――は!?」
「あなたの――その綺麗な顔が、わたしの好みとピッタリ合致するのよ。父様に喰わせるなんて、もったいないわ」
 少女が熱い視線をクラリスの顔に注いでくる。
 クラリスは再び驚愕に見舞われた。
 ――顔が好み……たったそれだけの理由で? しかも、父様って……?
 何だかとっても嫌な予感がして、クラリスは強張った表情で少女を見返した。
「もしかして、おまえ――」
「わたし? わたしは、アルディス・アノン・セリエンヌ・マルゴット・オルフェ・ロンデル・クロムバランシェよ」
 少女が堂々と名乗る。
 クラリスは背筋に冷や汗が流れるのを禁じ得なかった。
 大陸中どこを探しても『アルディス』と名乗ることが出来るのは、千年王国アダーシャを支配する王族だけだ。
 つまり、目の前のこの勝ち気な少女は、アルディス聖王家の一員ということになる。
 しかも、名前の長さから彼女がかなりの貴人であることが窺えた。クラリスでも知っているほどの大貴族の家名がズラズラと連ねられたからだ。
 彼女は『わたしには、ロンデル公爵家とクロムバランシェ公爵家、更にはオルフェ侯爵家とマルゴット伯爵家の血が流れてるのよ。何か文句でもある?』と明言しているのだ。
 どれもアダーシャの大貴族だ。
 中でもロンデル家とクロムバランシェ家は、古から連綿と続くアダーシャ名門貴族の双璧だ。この二つの一族は、ほぼ王族で構成されていると言っても過言ではない。
 二つの家名を冠することのできる彼女は――まず、間違いなく現王朝の血筋だ。
「自分でも長ったらしいと思うから――わたしのことは、セリエって呼んでいいわよ」
 クラリスの驚愕を余所に、少女はサバサバとした口調で告げるとクラリスの手首を掴み歩き始める。
 秘密通路を使い慣れているのか、闇の中でもセリエの足取りは澱むことがなかった。ズンズンと前進を続ける。
 しばらく行くと、セリエは「着いたわよ」と告げ、またしても胸元から鍵を取り出した。
 先ほどとは逆の手順で解錠し、扉を開け、タペストリーを捲る。
 セリエはクラリスの腕を掴んだまま、タペストリーの向こう側にある部屋へと身を移した。
 彼女に続いたクラリスは、室内に入った途端、思わずその場に立ち竦んでしまった。
「――ラ、ラータッ!?」
 喫驚のあまり甲高い声が喉の奥から飛び出す。
 室内に置かれた高価そうな椅子に座り、悠然と足を組んでいるのは――紛れもなく遊郭で知り合った少年だった。



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2009.06.13 / Top↑
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