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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.06.14[00:13]
     *


《運命》というものが、あるのならば―― 
 この世に、《運命》というものが確かに存在しているというのならば……。


「……お赦し下さい、陛下」
 傷だけらけの老将グレイスティが、レギオンの御前で平伏し、磨かれた床に頭を押しつけている。
 血に塗れた包帯姿の将軍は、息も絶え絶えで、両脇を衛兵に支えられながら辛うじて態勢を保っていた。
「我が国との国境付近を徘徊していたカシミア兵は囮で……カシミア軍は、本隊全軍をもって……キールを総攻撃してきたのでございます……。ローレン殿下は……戦死なさいました。お赦し下さい……。不肖グレスティ、殿下の御首しか御護りできませんでした……」
 グレスティが夥しい血液の付着している布袋を恐る恐る前へ差し出す。
 ローレンの首を持ち帰ったものだろう……。

 レギオンの深刻で渋い表情。
 アリシュアの蒼白な顔。
 苦悩に満ち、項垂れるグレスティ。
 置物のような布袋……。

 そのどれもを、アーナスは他人事のように茫然と眺めていた。
 今この場で起こっていることが信じがたい。
 まるで、夢か幻のようだった。
 イタール軍は、兵力の三分の二を失って帰還。
 とても《凱旋》と呼べるものではなく、紛れもない《敗走》だった……。
「……お赦し下さい、アーナス殿下」
 グレスティの暗暗とした視線がアーナスに向けられる。
「キール国王陛下……妃陛下……王太子殿下――逝去……。兄君のアイラ殿下は、行方が判らず……生死不明でございます……」
「――――」
 アーナスは無言でグレスティを凝視していた。
 ――眩暈がする。
 膝が震える。
 心が慟哭する。
 全身の血が騒ぐ――
「アーナス……!」
 不意にミロに強く腰を抱かれて、アーナスは驚いた。
 自分が卒倒しかけたことに、気づきもしなかったのだ。
 ミロの支えがなければ、確実に床に倒れていただろう。
「アーナス、今は耐えろ」
 ミロが強い口調で告げる。
 床に転がる血塗れの布袋に睨めつけるような視線を注いでいるミロの顔は、怒りと悲しみに満ち溢れていた。
 彼とて辛いのだ。
 実の兄の死と直面しているのだから。
 アーナスは痛いほど唇を噛み締めた。

 ――もしも、《運命》というものがあるのならば……。

 震える指でミロの服を強く握り、態勢を立て直す。
「キール城は陥落。キールは、カシミアに占拠されました……」
 グレスティの報告が遠くに聞こえる。

 ――もしも、《運命》というものが、この世に生を享けた瞬間から定まっているのならば……。

 アーナスは気を強く持ち、顔を上げ、キッと前を見据えた。

 ――そして、これが自分に与えられた《運命》なのだとしたら……。

「キール滅亡か……」
 レギオンの重々しい声。
 アーナスは錯乱しそうな心に鍵をかけ、毅然とした面持ちでレギオンに視線を移した。
 碧玉の双眸は烈火の輝きを放っている。
 
 ――私は、己が手でその《運命》を切り拓き、覆してやる……!



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