ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 占拠したキール城のある一室で、彼は、一枚の絵に冷ややかな視線を注いでいた。
 大理石の壁に填められた、巨大な肖像画。
 黄金の髪に青い双眸を持つ美しい少女が、絵の中から超然と彼を見下ろしている。
 その手には、水晶の如く透明に輝く剣が握られていた。
 大陸に住む者なら、その名を一度は聞いたことがあるであろう。
 創世神エルロラの分身――神剣ローラ。
 そしてローラを掲げるのは、エルロラの寵童――ギルバード・アーナスだ。
「ザハーク。おまえのつがいだ……。逃がしてしまったな」
 彼は自身の剣の柄を掴み、低く囁いた。
 キール城には、王女であるアーナスが当然いるものだと思っていた。
 だが、黄金の女神は一足違いで彼の魔手を擦り抜け、何処かへ姿を消してしまったらしい……。

 彼は肖像画から視線を下ろし、床に転がる三つの物体を無感情に一瞥した。
 床には、血塗れの生首が三つ、無造作に転がっている。
 彼がキールを侵略するまで、この城の玉座に座っていた国王ギル・ハーン。
 その妻――王妃リネミリア。
 そして王太子ランシェの首だ。
 それらを興味なさげに見回した後、彼は再び画中のギルバード・アーナスに視線を据えた。

 しばらく見つめた後、
「……似ているな」
 抑揚のない声で呟き、身を反転させた。
 すぐ傍の大理石の支柱には、一人の青年が鎖でがんじがらめに縛りつけられている。
 彼は悠然と囚われ人に歩み寄り、その顔を見分するように顎に手をかけた。
「妹に手を出すな」
 額から血を流す青年が、気丈にも彼を睨めつけてくる。
 輝く銀の髪から覗く蒼い双眸は、怒りと憎悪に激しく燃え上がっていた。
 青年の顔は、髪の色さえ覗けば肖像画の中のアーナスとそっくりだった。
 同一人物ではないか、と猜疑してしまうほどに二者の顔の造形は酷似しているのだ。
 そう。彼は『ギルバード・アーナスに似ているから』という理由だけで、捕らえた青年の処刑を済ませずにいた。
「ギルバード・アーナスは、余の半身だ」
 酷薄な笑みを浮かべ、彼はザハークを鞘から抜き払った。
「貴様などに妹は渡さぬ。返り討ちにあって滅びるがいい、ラパス!」
「それはどうかな? おまえは自分の妹が余に殺されるのを黙って見ていればいい、アイラ」
 青年の髪を乱暴に掴み、彼はその美しい銀髪を一房ザハークで斬り落とした。
 そのままザハークを青年の頬に添え、肌一枚を器用に裂く。
 青年の頬を滑る血の筋に指を当て、彼は愉悦に満ちた笑みを浮かべた。

 見る者を慄然とさせるような、冷たく、残虐な、魔王の微笑みだった……。


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2009.06.14 / Top↑
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