ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 翔舞と紫姫魅は距離を措いたまま無言で対峙していた。
 互いに目を逸らさずに見つめ合う。
 しばしの沈黙の後、
「……何故、この城へやってきた、翔舞?」
 紫姫魅が先に口を開いた。
 闇を凝縮したような黒曜石の双眸に、僅かだが慈しむような温かな光が宿る。だが、それは一瞬にして打ち消され、すぐに冷徹で冷酷なものへと変じた。
「言わずと知れたこと――おまえを殺すためだ」
 翔舞は紫姫魅の質問に躊躇わずに応えると、鞍馬を庇うように前に出た。
 畏怖や怯懦の念はなかった。
 ただ、ほんの少しばかり虚しさが心をよぎっただけだ……。
 その空虚な感覚を払拭するように、翔舞は毅然と紫姫魅を睨めつけた。
「私を殺すか、翔舞?」
 確認するような紫姫魅の問い。
 翔舞は無言で剣を鞘から抜き払った。
 これが答えだ。
 利き腕ではない右手で剣を構え、その切っ先をピタリと紫姫魅へ向けた。
 一拍の間を措き、紫姫魅も剣を手にする。
 次の瞬間、翔舞は力強く地を蹴り、跳躍していた。


 薄紫の長い髪がフワリと優雅に靡く。
 剣を手にした翔舞の姿は、宙を舞っているかのように幻想的だった。
 翔舞の剣が紫姫魅の心臓に狙いをつける。
 ――綺麗だ。
 ふと、紫姫魅は思った。
 眼前の翔舞の姿が鮮やかすぎて、思わず視線を奪われる。
 彼の心の眼には、いつの日か天神祭で出逢った舞姫が映し出されていた。薄紫の髪も紅玉のような瞳も、昔と何一つ変わってはいない――心をざわつかせるほどに美しいままだ。
 ピタリ。
 不意に、心臓に突き刺さる寸前で剣を止められて、紫姫魅はハッと我に返った。
 冴え冴えとした輝きを放つ刀身が、胸元に触れている。
「何故、よけぬ?」
 翔舞の怪訝な眼差しが紫姫魅に注がれる。
「――おまえこそ、何故一突きにしなかった? 先ほどの私なら簡単に殺せたものを……」
「腑抜けた相手を殺めるのは御免だ」
「なるほど。だが――それが命取りになる」
 紫姫魅は迅速に剣を操ると、翔舞の愛刀を振り払った。
 サッと身軽に翔舞が飛び退く。
「雪を殺したな?」
 紫姫魅に注がれた双眸に、昏い憎悪の炎が灯る。
 烈しい憎しみをぶつけられて、紫姫魅は僅かに目を細めた。翔舞の口から雪の名が飛び出したことが解せなかったのだ。
 この場にそぐわぬ話題だ。
「確かに。だが、それが、おまえとどう繋がる?」
「私の――私の弟だった!」
 翔舞の口から激情が迸る。
 刹那、地下の岩間に、通常では考えられぬ突風が巻き起こる。
 彼女の抑えきれぬ悲憤を表すかのように、長い髪が風と共に舞い上がった。



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2009.06.14 / Top↑
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