ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 絶叫が長く尾を引く。
 鞍馬の悲鳴だ。
 翔舞は素早く声のした方へ視線を転じた。
 離れた位置で翔舞と紫姫魅の闘いを見守っていた鞍馬。その彼女の四肢に無数の蔦が絡みついてた。
「紫姫魅様! 何を躊躇っているのですかっ!? 早く風天殿にとどめを――!」
 鞍馬のすぐ傍から男の声が聞こえてくる。
 薄闇の中にぼんやりと白い影が浮かび上がる。それは、すぐに一人の青年の姿を象った――悧魄(りはく)だ。
 これまで何処かで様子を窺っていたのだろう。主である紫姫魅の闘い振りに痺れを切らせて、忠実なる部下は姿を現したらしい。
「いやっ! 放してっっ!!」
 鞍馬の悲鳴が地下に反響する。悧魄が操る植物によって、彼女は完全に動きを封じられていた。蔦によってかなり締め付けられているのか、眉間に皺を寄せ、苦悶の表情を浮かべている。
「鞍馬天!」
 翔舞は胸の裡に焦燥が芽生えるのを感じた。
 鞍馬を人質に取られたも同然だ。
 彼女を助けなければならない。
 咄嗟に鞍馬の方へ駆け出そうとして――得物がない事実に気がついた。先ほど紫姫魅に弾き飛ばされ、彼の手中へと渡ってしまったのだ。
 チッと軽く舌打ちを鳴らし、翔舞は出血している右手を振った。
 宙に血の華が咲く。
「我が名は、翔舞。風の一族の王なり。我から生命と力を与えられし者よ、今こそ我に忠誠を示し、我に仇なすものを消し去れ」
 翔舞は己の血液を孕んだ宙にフッと息を吹きかけた。
 風を操る呪だ。
 通常の闘いであれば武器を使用するが、やむを得ない場合にのみ武神将は呪法を駆使する。これには、武器を通して神力を発揮するよりも遙かに強い《氣》を必要とするのだ。その分、威力も凄まじいが、氣の消耗が激しすぎるために滅多に呪を唇に乗せることはない。
「風よ――切り裂け!」
 翔舞の薄紫の髪が一気に逆立つ。
 目に見えぬ《力》の渦が彼女を取り巻いていた。
「悧魄! よけろっっ!」
 紫姫魅が彼にしては珍しく声を張り上げ、部下に危険を報せる。
「――――!?」 
 主人の忠告を理解し、悧魄が瞬時に《結界》を張った。淡い黄金の光が、彼を護るように膜を造る。
 だが、それはあまりにも呆気なく掻き消された。
 突如として巻き起こった暴風が、悧魄の結界をいとも容易く破砕したのだ。
 荒れ狂う風が刃と化し、悧魄の身体を容赦なく斬りつける。
 彼は竜巻のように螺旋を描く風に弾き飛ばされ、後方にある岩石群に叩き付けられた。
 気を失ったのか、そのままぐったりとして微動だにしない。
 同時に、鞍馬を戒める蔦がスルスルと離れていった。
「翔舞様っ!?」
 解放された鞍馬が、一目散に翔舞の元へ駆け寄ってくる。
 翔舞は真っ青な顔で鞍馬を眺め、苦しげに肩で息をした。
 呪を紡ぎ、風を使役したことで、著しく体力と気力が消費されたのだ。
 翔舞は鞍馬から視線を逸らすと、ゆるりと背後を振り返った。
 秀麗な額に玉のような汗を浮かべ――それでも気丈に前を見据える。
 紫姫魅が悠然とした足取りでこちらへ向かっていた。
 彼の気配を察した鞍馬が、翔舞を庇うように前に立つ。
 彼女は、怒りに満ちた瞳で紫姫魅を睨みつけた。
「……来ないで。翔舞様に――近づかないでぇぇっっ!!」
 鞍馬の絶叫が空を揺るがす。
 ドォォォーンッッ!
 地を震わす爆発音。
 鞍馬の想いに応えるように、地中から豪快な火柱が噴き出した。



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2009.06.14 / Top↑
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