ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 夜の寂冪とした空気が、全てを覆っていた。
 世界は、夕刻の騒動など何事もなかったかのようにひどく静穏だ。
 満天の星が輝く夜空を見上げながら、アーナスは物思いに耽っていた。
「……父上」
 唇が小さな言葉を紡ぐ。
 美しい星辰を眺めてはいても、心は遙か遠くに跳んでいた。
「母上……ランシェ兄上……」
 厳格で普段は滅多に笑うことがなかったが、いつも剣の腕だけは褒めてくれた父。
 優しさと気丈さを兼ね備えた、美しい母。 
 よき師匠であり、相談役だった――敬愛する兄。
 そのどれもを一気に失ってしまったのだ。
 平和で暖かい『家族』は、もう二度と還らない……。
「アイラ兄上……どうかご無事で――」
 アーナスは切に願った。
 歳が近いせいか、双子のように仲の良かった下の兄。
 生死不明の彼の安否が気に懸る。
 彼が生きてさえいてくれれば、この暗く沈み込んだ心も少しは浮上しように……。
「アイラは、生きてるさ」
 不意打ちのように背後から声をかけられて、アーナスは驚きと共に振り返った。
 軽装姿のミロが、じっとアーナスを見つめていた。
 歩み寄ってくるミロの姿を確認して、アーナスは、ここがミロの寝室に面した露台だという事実に改めて気が付いた。
「アイラは生きてる。しぶとい奴だからな」
 ミロがアーナスの髪を一束手に取り、そっと口づける。
 ミロとアイラは同じ歳だということもあり、非常に仲が良かったのだ。
「……同情ならいらんぞ」
 アーナスは無表情にミロを見返した。
 ミロが心からアイラの身を案じているのは解るのだが、どうしても彼に対して素直になれない。
 彼だけが、人間として、一人の個人として、女として――自分を認め、愛してくれるからなのかもしれない。
「強情な奴だな」
 ミロが苦い笑みを浮かべる。
「生まれつきだ」
「おまえは俺の前だけでは泣いてもいいんだぞ、アーナス」
 突っぱねるアーナスを、ミロは力任せに引き寄せた。
「ミロッ!」
 アーナスは咎めるような顔でミロを見上げた。
「大人しく泣いてろ」
 簡潔に述べて、ミロはもがくアーナスの頭を自分の胸に押しつけた。
「――ミロ」
 アーナスは必要以上の抵抗はせずに、貸されたミロの胸に身を預けた。
 ……ドクン……ドクン……。
 心臓の音が聞こえる。
 心地好い安寧を感じる、優しい波動。
 心が休まるような響き。
 急激に目頭が熱くなった。
 この胸は信頼できる。
 この腕は生涯自分を離さず、暖かく優しく自分を受け止め、包み込んでくれるだろう……。



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2009.06.14 / Top↑
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