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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.06.14[20:26]
     *


 グレスティ将軍が敗戦の報せをもたらしてから、三日後――
 イタール国内では、ローレン王太子の国葬と戦で生命を落とした戦士たちの追悼式が慌ただしく催された。
 更に二日後、レイ城では第三王子ミロ・レイクールンとキール王女ギルバード・アーナスの婚儀が、密やかに執り行われていた。
 戦時下ということで、国をあげての盛大な式ではなく、ごく身内だけの質素な式典となり、民には婚礼の布告だけがなされた。




「アーナス様、綺麗!」
 黒天鵞絨のドレスを纏ったローズ・マリィが、瞳を輝かせながらアーナスに駆け寄ってくる。
「黒いドレスの花嫁など、前代未聞だな」
 アーナスは苦笑で彼女を迎える。
 身体の線に添った細身のドレスの裾を指で摘んで、ローズ・マリィに見せる。
 豪華で美しいが、アーナスのドレスは漆黒の絹で出来たものだった。
 その隣に立つ花婿ミロの出で立ちも黒ずくめである。
 当然のことながら、参列者たちも限り無く喪装に近い装いだった。
「まっ、似合ってるからいいけどな。何にせよ、アーナスのドレス姿など滅多にお目にかかれない代物だ」
 ミロがからかいを含んだ口調で述べ、アーナスに視線を流す。
 二人は今しがた、レギオン国王の前で婚姻の誓約を交わしてきたばかりだった。
 厳粛な式も無事に終え、退出しようとしたところをローズ・マリィに捕まったのである。
「でも、こんな時じゃなかったら、もっと豪華絢爛なドレスを着て、万人に祝福されるような盛大な式が挙げられたのに」
 ローズ・マリィが不服げに唇を尖らせる。
「そんなことは、どうでもよいのだよ。私は……ミロと結婚したかっただけなのだから」
 アーナスが和やかに微笑む。
 ミロとローズ・マリィは、思わず顔を見合わせていた。
 柔和に微笑むアーナスが非常に珍しかったのだ。
「――やれやれ、早速ノロケかい? 我が弟も幸せな奴だ。こんな素晴らしい女神と一生を誓い合えたのだからね」
 不意に、柔らかい声が三人に投げられ、闖入者の出現を表す。
 皆の視線が一斉に声の主に注目した。
「リオン兄様!」
 瞬時、ローズ・マリィが弾んだ声をあげる。
 第二王子リオンが、妻であるアリシュアと共に立っていたのだ。
「いつ帰ってきたんですか、兄上?」
 ミロが不思議そうに尋ねる。
 リオンは、カシミアとの国境沿いに赴いていたはずだ。
「今さっきだよ。父上から帰還命令が出てね。国境警備隊を残して帰ってきたんだ。カシミアとの全面対決になるから、人材が欲しいらしい」
 リオンは微かに表情を曇らせながら言葉を紡ぐ。
「リオン様。めでたい席なのですから、戦の話は控えましょう」
 アリシュアが夫の腕を軽く引きながら柔らかく嗜める。
「義姉上の言う通りだ。それに兄上には、剣よりも竪琴の方が似合ってる」
 ミロの言葉に、リオンは肩を竦めただけだった。
 兄弟の中で最も温和な性質のリオンは、竪琴の名手としても有名なのである。
「そのうち、お聴かせしましょう、アーナス殿。――ミロをよろしくお願いしますね」
「お二人とも、おめでとうございます」
 リオンとアリシュアが優雅な仕種で一礼する。
「ありがとうございます」
 アーナスは素直に感謝の辞を述べた。
 他人に自分の幸せを祝ってもらうというのは、気恥しいが嬉しいことでもあった。
「――あっ、ルークとアガシャだわ!」
 ローズ・マリィが、人波の中に何かを発見したように大きく手を振る。
 人々の間を縫うようにしてやってきたのは、アーナスの忠実なる従者――ルークとアガシャだった。
「ご結婚おめでとうございます、アーナス様! ミロ様!」
 ルークが興奮した眼差しでアーナスとミロを見上げる。
 尊敬する二人の晴姿を見て、陶然としているようだった。
「姫様……爺は、嬉しゅうございます。陛下や王妃様も、きっとお喜びになっていることでしょう……」
 感極まった涙声で祝辞を述べたのは、アガシャだ。
「ありがとう、二人とも」
 アーナスは、今にも感涙しそうなアガシャの肩を優しく抱き寄せた。
 実の父と母が殺された今、アーナスにとってはアガシャが親代わりだった。
 和やかになりかけた空気の中を、
「――ミロ殿下っ!」
 突如として、数人の近衛兵たちが駆けてきた。



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