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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.06.14[20:30]
 近衛兵らはミロとアーナスの前で足を止め、恭しくその場に跪くのだ。
「何事だ?」
 ミロが怪訝そうな眼差しを近衛兵へ注ぐ。
「ミロ様。妃殿下――」
 近衛兵が真摯な面持ちで二人を見上げた。
「……妃殿下、か」
 アーナスは、左の薬指に填められたイタール王家の指輪を無意識に撫でていた。
 慣れない呼ばれ方と指輪が、妙にくすぐったい。
「妃殿下」
「――何か?」
 再び名を呼ばれて、アーナスは我に返った。
 いつもの凛然とした顔つきで、近衛兵に視点を当てる。
「大広場に民が大勢お集りです」
「――――?」
 告げられたアーナスは、言葉の意味が理解できずに首を捻った。
 広場というのは、一般に公開されているレイ城・大庭園のことだろう。
 広場に面した部分には、国王が直接民に姿を見せるための大きな露台が設置されている。
 その広場に、大勢の人間が集まっているとは、どういうことなのだろうか……?
「キールから逃れてきた民や兵士を含め、キールの訃報と婚礼の報せを聞き付けた者たちが集まっているのです。皆、あなた様のお名前を呼んでおります」
「……私――の?」
 アーナスは困惑顔で近衛兵とミロを交互に見比べた。
「皆、おまえを待ってるんだよ」
 ミロが意味深な微笑を浮かべ、元気づけるように頷く。
「そうです。大勢の者たちがあなた様をお待ちになっています。どうか、一目お姿を――」
「しかし、あそこは、国王陛下の――」
「いってやりなさい、姫」
 戸惑うアーナスの声に、レギオンの声が重なった。
「陛下……?」
「皆、そなたを求めているのだよ。キールの民もイタールの民も、カシミアを呪い憎んでいる。カシミアを討つための《希望》として、皆が『ギルバード・アーナス・エルロラ』という光を望んでいるのだよ」
 思慮深げなレギオンの双眸がアーナスをじっと見つめていた。
「そなたを信望する民に、その姿を見せてあげるがよい」
「……陛下」
「よーし。行くか、アーナス!」
 まだ躊躇するアーナスの肩をミロが軽く叩いた。
「お色直しの時間だ」
 ミロが明るく言って微笑みかける。
 アーナスは、その笑顔に勇気づけられたように強く頷いた。
 いつまでも、幸せな気分に浸っているわけにはいかないのだ。
 自分には、その時間が赦されていない。
 ドレスを鎧に、宝冠を剣へ――
 アーナスは素早く自意識を切り換えた。
 ――大丈夫。私にはミロがいる。
 信頼の表情でミロを見つめる。
「行こう、アーナス――」
 差し出された手をアーナスはしっかりと握りしめた。



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