ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 露台へと続く長い階段を、アーナスはミロと連れ立って登っていた。
「アーナス様!」
「エルロラ様っ!」
 様々な叫びが、ここまで聞こえてくる。
 大勢の人々の声が重なり合って、大地を揺るがしている。
「行くぞ、アーナス」
 階段と露台を繋ぐ扉の前で、ミロが力強くアーナスの肩を抱いた。
 ミロが手を一振りすると、門番が機敏な動作で扉を開ける。

 眩い光。
 
 神々しい太陽の光が、視界を埋め尽くす。
 あまりの眩しさに、思わず瞼を閉ざしてしまう。
 ミロの手が誘うままにアーナスは歩を進めた。
 人々の叫びが、示し合わせたようにピタリと止まる。
「――皆、よく集まってくれた」
 ミロのねぎらうような声。
「私の妻――ギルバード・アーナス・エルロラを紹介しよう」
 ミロが二言目を告げた刹那、
 ウワァァァァァッッッ!
 歓声が巻き起こった。
 空気を震撼させる歓喜の声。
 異常なまでの熱気を孕んだ歓声は、戦前の鬨の声を想起させる。
 アーナスは凄まじい熱気に呑み込まれぬよう、ゆっくりと瞼を上げた。

 背筋が粟立つ。
 何千何万の人々が自分を見つめていた。
 傷付いた兵士から無邪気な子供、純朴な老人まで――多種多様な人々が広場に詰めかけていた。
 皆、救世主『ギルバード・アーナス・エルロラ』を待ち望んでいるのだ。
 怒濤のような人々の声。声、声、声。
 ――圧倒されそうだ……。
「アーナス」
 ミロがアーナスの耳元で囁き、一歩前に進み出る。
 彼は、軽く片手を挙げて観衆の叫びに応えていた。
 アーナスも彼に倣い手を挙げる。
 途端、
「アーナス様っっ!!」
「エルロラ様!」
 歓声が一際大きくなる。
「アーナスさまぁぁぁっっ!」
 甲高い少女の声が響き渡る。
 ふと下を見ると、露台の真下で小さな少女が、アーナスに向かって花束を放り投げるところだった。
 非力な子供の力では、アーナスまで花束は届きそうにない。
 アーナスは露台から身を乗り出すようにして、宙へ放り投げられた花束を受け取った。
「――ありがとう」
 少女に礼を述べ、民衆に向かって花束を掲げてみせる。
「アーナス様っっ!」
「妃殿下っ!!」
 再び、大歓声が人々の口から放たれる。
 誰もが口々にアーナスの名を叫んでいた。
 ――皆が、私を望んでいる。
 訳もなく、アーナスは泣きたい衝動に駆られた。
 胸が楔を打ち込まれたように痛い。
 ――もう後戻りはできない。私は生きる。
 心の中で強く自分に言い聞かせる。
 ――私は、《世界》を……《運命》を覆す。
 手が、無意識に腰に携えたローラの柄に伸びた。
 ――この手で、全てを……。
「アーナス様、万歳っ!」
「妃殿下、万歳っっ!」
 人々の歓呼の叫びが、脳裏で木霊する。
 ――この人々と……このロレーヌの大地と共に……。
 アーナスは力強くローラの柄を握りしめた。
 ――私は、生きる!
 ローラを鞘から抜き払う。
 そのまま剣を持つ手を天高く掲げた。
 刹那、
 晴れた天空から一条の稲妻が迸った。
 集った民衆は、突如起こった奇蹟を声もなく見守っていた。
 天から落ちてきた黄金の稲妻がローラを伝い、アーナスの全身を眩く輝かせたのだ。
 それは、エルロラ神の祝福のようだった。
 奇蹟が起こった。
 黄金の光を纏ったアーナスの姿は、人々の目にはエルロラの化身として映ったことだろう。
 奇蹟を信じる者は、エルロラの降臨をも信じたに違いない。
「……女神」
「エルロラ神だ……!」
「烈光の女神だッ!!」
 静寂の海と化した群衆の間に、ヒソヒソとした騒めきが生じ始める。
 それは、あっという間に広がり、再度広場は歓声の波に呑まれた。
 アーナスはひどく冷静に光り輝く自分を一瞥し、美しい透明な神の剣を軽く水平に薙ぎった。
 透き通った刀身から零れた黄金の光の粒子が、露台から人々の上へ降り注ぐ。
「我、ギルバード・アーナス・エルロラは、ここに宣言する」
 アーナスが凛とした声を張り上げると、観衆はしんと静まり返った。
 神の啓示を一言でも聞き逃してはならい――というように。
 アーナスは一度観衆を見回してから、威風堂々と宣告する。
「キールの正統な王位継承者として、また、イタール第三王子ミロ・レイクールンの妻として、『平和協定』を侵し、このロレーヌを略奪しようと企てる、悪辣なる逆賊――カシミア王ラパスを討つ!」


 時に、大陸暦一二八五年、春の終わりの出来事であった――



     「4.二神邂逅」へ続く



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2009.06.14 / Top↑
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