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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Mon
2009.06.15[08:53]
地天居城――善地城


 紫姫魅天の叛乱発覚から既に半月以上が経過していた。
 一般の天人が与り知らぬ水面下で不穏な影は揺れ続けている。

「お母様、どこへ行くの?」
 王城を出て行こうとする母親に、幼い少女は不思議そうに訊ねた。
 少女の前方には黒髪の美しい女性が佇んでいる。
 地天・蘭麗(らんれい)だ。
 少女の方は、蘭麗の愛娘――華蓮(かれん)である。
 蘭麗は心配そうに自分を見上げている娘に、柔和な微笑みを向けた。
「領地内を見回ってくるのだよ。……華蓮は成長が早いな。ここ二、三日で五歳ほど成長したようだ」
 華蓮の髪を愛おしげに撫でると、あどけない顔がパッと薔薇色に染まった。
「華蓮ね、早く大きくなって、お母様と一緒に天王様をお護りするの!」
「それは頼もしいな。――じゃあ、私のいない間、薙と一緒にこの城を護っていてくれ」
 蘭麗は娘の両頬に口づけを捧げ、そっと身を離した。
「はーい!」
 華蓮からは元気な返事が返ってくる。
 愛らしい少女は母に満面の笑顔を贈ると、クルリと背を返し、小走りに長い廊下を引き返していった。
 その後ろ姿を蘭麗は眩しげに眺めていた。
 許されるのならば、ずっと娘の傍にいてあげたい。日々娘が大人へと成長してゆく様を、この目で見届けたい。
 だが、蘭麗には残された時間はあまりにも短かった。
 生命の灯火が燃え尽きる前に、天王に伝えねばならない。
 この天界で、蘭麗だけが気づいてしまったであろう事実を。
 紫姫魅の真意を――
 蘭麗が目敏く気づいたからこそ、紫姫魅は真っ先に自分の生命を狙ったのだろう……。
 ――馬鹿な男だ。
 胸中で呟き、蘭麗は身を翻した。
 脳裏に美貌の天神を思い浮かべる。
 一瞬、純白の翼を持つ青年の姿もよぎったが、それは鋼鉄の意志で閉め出した。今は、あの男のことは考えたくない。
 考えるべきは、紫姫魅のことをどう天王に伝えるか――だ。
 ――馬鹿な男だ。愚かしい……。何故、天王様に一言告げなかったのだ?
 蘭麗はキュッと唇を硬く引き結んだ。
 早々に打ち切るべきなのだ。
 こんな無意味な争いは。
 ――そうであろう、紫姫魅?
 我知らず、蘭麗は脳裏に描いた麗人に問いかけていた。
 この天界で、誰よりも乱の終結を切に願っているだろう神に――


     *


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