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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Mon
2009.06.15[23:07]
 キール王女ギルバード・アーナスが、カシミア王ラパスに宣戦布告を叩き付けてから、優に半年の時が流れ去っていた。
 戦争開始と共に、双方はロレーヌ各地で小さな合戦を相次いで巻き起こしている。
 一方は、ロレーヌ全土を支配するために。
 もう一方は、それを阻止し、占拠されたキールを奪い返すために。
 しかし、ロレーヌを二分する大戦は、半年経った今でも膠着状態が持続されていた。
 勝敗がつかないまま短い盛夏が過ぎ、過ごしやすい秋も終わりを告げようとしていた。
 未だキール城はラパスの掌中にあり、戦火はロレーヌの大地を縦横無尽に飛び散っている……。


      *


 涼やかな秋の風が、自由奔放に乱舞している。
 長い金髪を風の好きなように遊ばせながら、アーナスは小高い丘の上から遠方を眺めていた。
 遙か彼方に高い尖塔の目立つ建造物が見える。
「父上と母上、そして兄上の遺体は、見せしめのために、あの塔の上から吊されたそうだ」
 アーナスの唇が、独白めいた呟きを洩らした。
 碧い双眼が、奥に秘められた苦恨と哀しみを垣間見せるように仄暗い光を放つ。
「こんな形で祖国に臨むとはな……」
 アーナスの唇が皮肉げに歪められる。
 彼女の両脇に控えていたルークとアリシュアは複雑な視線を交わし、顔を見合わせた。
 ここは、キールの王都マデンリアに近い丘陵地帯。
 そして、馬上の三人が丘の頂から見下ろす光景は――戦だった。
 昨夜、この地から十キロほど離れた地点に野営地を設置していたキール・イタール本軍は、丘陵地を挟んだ向こう側にカシミア軍が陣を構えているのを発見した。
 カシミア軍もキール・イタール軍に気づいたらしく、夜明けと共に臨戦状態となったのである。
 三人の眼下、キール・イタール軍約四千兵とカシミア軍約五千兵が入り乱れて、戦争を繰り広げている。

 悪魔のような漆黒を纏うのは、カシミア軍。
 純白の群は、イタール軍。
 目にも鮮やかな青は、キール軍だ。

 それぞれが国色の甲冑を纏い、同じ色の旗を掲げて、戦場に臨んでいた。
 キール・イタール軍・総大将たるアーナスは、彼女を護衛する旗本八百兵を率いて、丘の上から指揮を執っている最中である。
「――左翼が圧されてるな」
 アーナスは戦場に配る視線を一点に据えて、微かに眉根を寄せた。
 左翼部隊の隊列が崩され、手薄になった箇所を鋭くカシミア兵が攻め込んでいるのだ。
「フレイ将軍の軍ですね」
 アリシュアが曇った表情で相槌を打つ。
 カシミア軍が左翼を強行突破し、本陣に猪突してくる恐れがある。
 軍の総指令であるアーナスの身辺を危険に曝すことだけは避けたかった。
「そのようだな。――グレスティ将軍! ルーク!」
 アーナスは冷静に頷き、前方を睨みつけたまま二者の名を呼んだ。
「何ですか、アーナス様?」
 隣に並ぶルークが、アーナスを注視する。
「――お呼びですか、殿下」
 後方に控えていたらしい老練の将軍グレスティが、馬を駆ってアーナスの傍らへやってきた。
 彼は、旗本八百兵の指揮を一任されているのだ。
「グレスティ将軍。本陣の中から騎士三百を連れて、左翼のフレイ将軍に加勢しろ」
「――はっ!」
 アーナスの指令に、グレスティは畏まった様子で頭を垂れた。
「ルーク!」
 次にアーナスの視線は褐色の肌の少年に向けられた。
「槍隊百、弓隊百をおまえに貸し与える。グレスティ将軍の援護をしろ」
「えっ……? ええっ? 僕がですかぁ!?」
 突然の命令に、ルークは素頓狂な声をあげた。
 無論、驚愕と緊張のためである。
「自分で言っちゃあなんですが、こんな子供の指揮なんて、誰も受け付けないですよぉ!?」
 目を丸め、意味のない大振りの動作で両手を忙しなく動かしながら、ルークは狼狽の体で主人に抗議した。
「私の初陣も、今のおまえと同じ十四の時だった――」
 ルークの動揺を鎮めるように、アーナスは静かに言葉を放った。
「おまえの指揮を『子供だから』と言って受け入れないような浅慮な兵は、私の軍にはいないだろう。おまえの剣の腕は、戦場を駆ける兵士たちが一番よく知っているはずだ」
 慌てふためくルークに淡々と言葉を浴びせる。
 実力を年齢で推し量るなど、馬鹿げたことだ。
 それに、そんなことで指揮系統が乱れるようでは、この苛酷な戦は乗り切れない。
「恐れながら、殿下。本陣から五百を切り離して、殿下の護衛に三百しか残さないというのは――」
「平気だ」
 間に割って入ってきたグレスティの言葉を、アーナスは片手を挙げて制した。
「私の護衛など要らぬ。自分の身は、自分で護る。残り三百は、私が直接指揮を執る。グレスティ将軍とルークは、任務の遂行に努めよ」
「……御意に」
 グレスティはアーナスの説得を諦めたように瞳を伏せた。
「ルーク。『子供だ』と罵られるのが嫌なら、剣を取り、その実力を見せてやれ。おまえの、その二つの剣は飾りではないだろう」
 アーナスは、まだ困惑してるようなルークに不敵に微笑んでみせる。
「――はっ、はいっ!」
 その自信に満ちた笑みが、ルークの中の不安と躊躇いを払拭したらしい。
「僕、アーナス様の期待に添えるよう、頑張ってきますっ!」
 彼は興奮に頬を紅潮させながら威勢の良い返事を発した。
「では――参るぞ、ルーク・ベイ!」
「はい!」
 グレスティが馬首を巡らして、兵士たちの元へ戻って行く。
 その背後をルークが追った。



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Category * 鬼哭の大地
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