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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
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Mon
2009.06.15[23:14]
 急激に本陣は慌ただしくなった。
 指令が飛び交い、軍の編成が素早く組み替えられる。
 旗本から切り離された五百の兵が、グレスティとルークに従えられ、左翼へ出陣する。
 それを見届けて、アーナスは大きく息を吐き出した。
「これで、左翼は持ち直すだろう」
「ええ。……アーナス様。実は、先ほどから気になっていたのですが――」
 ふと、アリシュアが気遣わしげな眼差しをアーナスへと注いでくる。
「何か?」
 その視線を承けて、アーナスは僅かに首を傾げた。
「顔色が良くないようですが……どこか具合でも悪いのですか?」
 アリシュアの心配そうな声。
 彼女の目にはアーナスの肌の色がいつもより悪く、血の気が失せているように映っているのだ。
「ああ……これか?」
 アーナスは何かに気付いたように小さく呟き、苦笑を浮かべた。
「まったく、《銀灰の護り》であるアリシュア殿には敵わないな。誰も気づかないと思っていたのだけれど……」
「では、やはり身体の具合が……?」
「いや、そうじゃないんだ。病気とか、怪我をしてるとかじゃなくて、これは――」
 ウワァァァァァッッッッ!!
 何かを打ち明けようとしたアーナスの言葉は、怒濤のような兵士たちの叫び声によって遮断された。
 アーナスが鋭い目つきで、戦場に視線を戻す。
「――チッ!」
 自然と舌打ちが洩れた。
「アーナス様っ!?」
 アリシュアも事態の異変を察したようだ。
 白と青の甲冑が入り乱れるキール・イタール同盟軍の中を、漆黒の塊が疾風の如く移動しているのだ。
 黒は、カシミアの国色――

「中央突破か……!」
 アーナスは表情を引き締めた。
「アリシュア殿!」
 闘争心露な戦士の顔で、隣のアリシュアに視線を流す。
「解ってます。――イスファーン!」
 アリシュアは了承するよりも早く虚空に精霊文字を描き、それに息を吹き掛けて生命を与えていた。
 ゴオッ!
 旋風が巻き起こり、アリシュアの周囲を一回りしてから何処かへ飛んで行く。
 再び風がアリシュアの元へ戻ってきたのは、ほんの数秒後のことだった。
「アーナス様、中央突破のカシミア軍は僅か二百。指揮を執っているのは、ラパス本人のようです!」
 アリシュアが厳しい顔で報告する。
 彼女は風の精霊イスファーンを遣って、神業ともいえる敵情視察を行ってきたのだ。
「ラパス――だと?」
 その名を耳にした瞬間、アーナスの心に火が点いた。
 燃え上がる憎悪と敵愾心。
「よし、私が出る!」
 アーナスは双眸を鋭利に輝かせ、断言した。
「アーナス様っ!?」
 アリシュアが非難の声をあげる。
「いけません、アーナス様!」
「アリシュア殿。何故、あの時、エルロラは、私に――民の前に、奇蹟を見せ付けたのだと思う?」
 アーナスは険しい表情を崩し、穏やかな面差しでアリシュアを見つめた。
『あの時』というのは、ラパス討伐を宣言した時のことだ。
 数多の民衆の前で、エルロラは己れの分身ともいえる雷をアーナスの上に落とし、その全身を黄金に輝かせるという奇蹟をやってのけたのだ。
「それは……アーナス様を祝福に――」
 アリシュアはアーナスの意図するところが解せずに、不確かな口調で応じた。
「違うな」
 アーナスは静かに首を横に振った。
「私には、あれは私に対するエルロラの脅迫のように感じられたよ。奴は、無言で『ラパスを斃せ』と圧力をかけてきたんだ」
「……アーナス様?」
「それなら、それで構わない。たまにはエルロラの思い通り――奴の望む結末通りに動いてやろうじゃないか。どういう訳か、ラパスに関しては奴と私の意見は一致しているらしいしな」
 アーナスは美貌に自嘲めいた微笑を刻んだ。
「ラパスは、私がこの手で必ず――討つ!」
 他者の反論を一切受け付けないような激しい口調で、アーナスは断言した。
「……解りました。お引き止めは致しませんわ。ご自分の信じる道をお進み下さい」
「ありがとう」
 アーナスはアリシュアに簡素に礼を述べ、馬首を翻した。
 自分の指揮を待つ兵士達を見渡してから、慣れた手付きでローラを鞘から抜き払う。
「ラパスを迎え撃つ――!」
 水晶のような美しい輝きを放つ剣を、垂直に高く掲げた。
 その姿は、正しく戦いの女神。
 黄金に煌めく烈光の女神だった。
「狙うは、ラパスの首っ! 皆、私に続け!――出陣っ!」
 アーナスは、鬨の声をあげた。
 兵士たちの『アーナス様!』『エルロラ様!』という称賛の歓声が、狂おしいほどの熱気を孕んで後に続く。
「待ってろ、ラパス!」
 アーナスは馬を走らせ、先陣切って丘を駆け降りた。



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