ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 空天居城――鳳凰城


 空天・迦羅紗(がらしゃ)は、自室の寝台で眠りに就いていた。
 丁度、地天・蘭麗が白王に殺害された時刻である。
 熟睡していた迦羅紗だが、突如として目を覚ました。
 瞼を跳ね上げ、勢いよく身を起こす。
 不吉な胸騒ぎを感じて、意識が眠りの世界から弾かれたのだ。
 ――リーン、リーン……。
 何処からか自分を呼び求めるような玲瓏が聞こえてくる。
「――蘭麗?」
 脳裏を黒髪金目の愛しき女性の姿がよぎる。
 迦羅紗は軽く眉根を寄せた。
「いや……気にしすぎか……」
 迦羅紗に対してだけは異常なほど意固地になる蘭麗が、自分のことを呼ぶわけもない。
 そうと解っていても――やはり気に懸かる。
 迦羅紗は寝台から滑り降り、夜着を脱ぎ捨てると、手早く軽装に着替えた。
 部屋を出ようと扉に手を伸ばしかけた時、それを見計らったかのように向こう側から扉が叩かれた。
 迦羅紗の返事も待たずに、側近の一人が入室してくる。
「王!? お起きになられていたのですか?」
 間近に立っていた迦羅紗に気づき、側近が驚きの声をあげる。 
 迦羅紗はそれを苦笑で受け止めた。
「ああ。――何用だ?」
 迦羅紗が訊ねると、側近は一瞬だけ気まずそうに目を逸らし、再び主に視線を戻すと痛切な声音で告げるのだ。
「大変言いにくいのですが――密偵が、地天様の死を確認致しました」
「蘭麗が――!?」
 もたらされた報告に恟然とし、迦羅紗は目を見開いた。
 だが、想像していたよりも衝撃は小さかった。
 眠りから目覚めた時、蘭麗の死を予感した。
 こうなることは、蘭麗が迦羅紗の羽根を所望した時から心の何処かで解っていたような気がする……。
「……そうか」
 思ったより冷静な己に苛立ちを感じ、迦羅紗は唇を噛み締めた。
 しばし、思案に耽るために瞼を閉ざす。
「――王、大丈夫ですか?」
 側近の気遣うような声。
 迦羅紗はゆっくりと瞳を開けた。
「平気だ――鳥羽は何処にいる?」
「鳥羽様は、先刻、亡き母宮様に花を供えるために後宮へ行かれましたが?」
「こんな早朝にか?」
「はい」
「……すまぬが、今すぐ鳥羽をここへ呼んでくれ」
「ここへ――ですか? 謁見の間ではなく?」
 側近が躊躇いがちに聞き返してくる。
「ここへだ」
「かしこまりました」
 迦羅紗が深く頷くと、側近は一礼して軽やかに退室してゆく。
 残された迦羅紗は、しばらくその場に立ち尽くしていた――


 数分後、側近が迦羅紗の私室に戻ってきた。
「鳥羽様をお連れ致しました」
 側近が丁寧に頭を垂れる。
「ご苦労。悪いが――鳥羽と二人だけにしてくれ」
 迦羅紗は、輝く若葉色の双眸に決意を込めて側近を見つめた。
「御意に」
 側近が従順に部屋を出て行く。
 彼と入れ替わりに、今度は一人の見目麗しい少年が迦羅紗の前に現れた。
 細い肩に、蒼く輝く一羽の鳥が留まっている。
 髪の色も瞳の色も迦羅紗と同じ、美貌の少年。
 瑞々しい若葉色の双眸は、真っ直ぐに迦羅紗に注がれていた。
 形の良い唇から美声が発せられる。
「お久しゅうございます、父上」
 少年は極上の微笑みを美顔に湛えるのだ。
 これが、敬愛する父との最後の対面になろうとは知りもせずに……。



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2009.06.16 / Top↑
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