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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.06.16[20:57]
 馬の蹄鉄が、大地を荒々しく蹴散らす。
 剣と剣のぶつかり合う音。
 肉や骨を断つ不快な響き。
 目の前で飛び散る血飛沫と、周囲に充満した血の匂い。
 兵士たちの怒号。
 絶叫。
 泣き声……。
 
 ここは、正しく戦場だった。
 アーナスは巧みに馬を操りながら、向かってくる黒甲冑の戦士達を薙ぎ倒し、前へ前へと押し進んでいた。
 目指すのは、ラパスの姿のみ。
 諸悪の根源である彼さえ討ち取ってしまえば、戦は終結する――少なくとも、情勢はキール・イタール同盟軍に有利になるはずだ。
「――どけっ! おまえたちに用はないっ!」
 アーナスは、襲ってくる騎士をローラで一刀両断に斬り捨てていた。
「アーナス様! そんなに急いては、他の騎士たちがついてこれませんよっ!」
 アーナスより僅かに遅れて、アリシュアが馬を駆らせている。
 アーナスの並々ならぬ馬術についてきているのは、彼女を含めて数人しかいない。
 総大将たるアーナスを孤立無援にしてはいけない、という信念だけが、彼女たちを衝き動かしていた。
「解っているが――ラパスが、すぐそこにいるんだっ!」
 アーナスは横から斬りかかってきた騎士の剣を素早く押し弾きながら、叫び返した。
 前進するにつれ、徐々に漆黒の騎士の数が増えてくる。
 数十メートル先には、風にたな引くカシミア王旗が見えていた。
 紛れもなくカシミア王ラパスが、手の届く範疇にいるのだ。
 こんな好機を見す見す逃す手はない。
 アーナスは、何かに急き立てられるように、馬の腹を力強く蹴った。
 馬が高い嘶きをあげて速度を速める。
「ああっ! もうっ!」
 アリシュアが、独走するアーナスの姿に呆れたような悲鳴をあげる。
 だが、焦りつつも彼女はアーナスの馬に足並みを合わせてくる。
「これ以上、先へは進ませぬっ!」
「陛下に近付けるなっ!」
「ラパス王の身辺を脅かすとは、何奴だ!?」
 ラパスの親衛隊らしき騎士たちが、疾駆する二人を見咎めて怒濤のように押しかけてくる。
 あっという間に、二人は黒騎士たちに取り囲まれていた。
「ほら、包囲されちゃったじゃないですか」
 アリシュアが馬の足を止めながら嘆きの声を洩らす。
「悪いな、アリシュア殿。――付き合ってもらうぞ!」
 アーナスはアリシュアの隣に馬を止めながら、横目で彼女を見遣った。
 その顔には悪びれた様子など微塵もなく、逆に涼やかな笑みさえ浮かんでいた。
「ええ! そのつもりで必死について参りましたから!」
 アリシュアからは開き直ったような受け答えが返ってきた。
 懐から短剣を取り出す彼女の顔にも、怯えや恐れは見て取れない。
「我が王に敵対する蛮賊めっ!」
「八つ裂きにしてくれるわっ!」
「陛下には指一本触れさせんっ!!」
 二十人ほどの黒騎たちが、血気盛んな叫びを浴びせてくる。
「――我が名は、ギルバード・アーナス!」
 アーナスは、血塗れのローラの切っ先をビシッと黒騎士団に突き付けた。
 騎士たちの間に動揺の波が広がる。
 彼らは、目の前の人物が本物の『ギルバード・アーナス・エルロラ』かどうか検分するように、アーナスを凝視し、次いで仲間内で目配せを交わした。
「貴様がギルバード・アーナス・エルロラだというのなら、丁度いい!」
 黒騎士の一人が、欲望のギラつく眼差しでアーナスを睨めつける。
「その首、ラパス陛下への贈り物にしてやるわっ!」
「貴様ら如きが私の首を獲るなど笑止千万! 生命が惜しければ、即刻退くがいい! 私が欲しいものは、ただ一つ――ラパスの首だけだ!」
 不遜な言葉を投げつけてきた黒騎士を、アーナスは鋭い眼力で睨み返した。
「アーナス様の邪魔をするというのならば、わたくしがお相手致しますわ」
 アリシュアがアーナスを庇うように前に進み出る。
 転瞬、黒騎士団の顔に新たな驚愕の色が浮かび上がった。
「ま……まさかっ――!?」
「あなた様は……!」
 騎士達の口から、畏怖するような囁きが洩れる。
「わたくしが名乗る必要はありませんわね」
 美しい微笑みを湛え、アリシュアは悠然と黒騎士たちを見回した。



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