ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「銀灰の髪――」
「姫……アリシュア姫かっ!?」
「ロシェル公爵の妹――アリシュア様……!」
 口々に出るのは、狼狽そのものの声だ。
 黒騎士団は同じカシミアの貴族を前にして、明らかに気が動転しているようだった。
「ええぃ! 何をしているかっ! 姫はキールやイタールに与してるのだぞ! 言わば、我々の敵――裏切り者だ! ロシェル公の妹君でも、気高き《銀灰の護り》であろうとも、故国を裏切った逆賊だ! 誰であろうと、反逆者は抹殺するっ!」
 一人の騎士が勇気を奮い起こし、叱咤するように叫んだ。
「そうだ! アリシュア姫を処刑しろ!」
 騎士たちの士気が、一気に盛り上がる。
「姫は逆賊だっ!」
 騎士の一人がアリシュアに向かって突進し始める。
 後に続くように他の騎士らもアリシュアを標的とし、一斉に躍りかかってきた。
「……《裏切り者》ですって?」
 スッと、アリシュアの表情から笑みが消失する。
「《裏切り者》はあなたたちでしょう! あなたたちは、ロシェル公ラギを――何の罪もないわたくしの兄を、サマリ先王の寵臣だからという理由で謀殺したのよ!」
 深い黒緑の双眸が憎悪の光を放つ。
「ラパスの罪深い野望のせいで、わたくしの兄はっ……! わたくしは絶対に忘れないわ……ラパスの残虐非道な仕打ちを――あなた方ちラパスの犯した罪を、決して赦しはしない!」
 アリシュアは豊かな銀灰の髪を振り乱して叫んだ。
 間髪入れず、手にした短剣で己が右手を切り付ける。
「我は《銀灰の護り》――アリシュア・レイクールンなり!」
 深紅の血が滴る指で、額に独特の精霊文字を描く。
「我が右手に、紅蓮の炎……」
 ボウッ、とアリシュアの右手に火が灯る。
「我が左手には、破邪の風――」
 次に、左手が小さな竜巻を生んだ。
「古の契約に基づき、我が召喚に応じよ! 炎の乙女レリアス! 風の王セフィラ!」
 アリシュアの唇が呪文を唱え終える。
 瞬時、辺り一帯の空気が歪んだ。
 アリシュアの右手の炎と左手の竜巻が一気に膨れ上がる。
 二つは、それぞれ巨大な人の形をとった。
 一つは、赤い髪と瞳の美しい少女。
 もう一つは、威風堂々とした逞しい男の姿を。
「ま、まさか、召喚魔法っ!?」
 黒騎士が恟然とした表情で二人の半透明な巨人を見上げる。
「そんな、馬鹿なっ!」
「一度に二人の守護天を召喚だとっ!?」
 黒騎士団の口からは、恐れるような叫びしか出てこない。
 世界で唯一、神から直接魔法を授けられた一族《銀灰の守り》。
 他の魔術師を凌駕する所以は、《銀灰の守り》だけが召喚の秘儀を識っていることにある。
 彼らは、伝説の聖獣・神獣、神々を守護する天上人を地上に喚び出し、使役することができるのだ。
 アリシュアが召喚したのは、火の女神ファリファナと風神ザナドゥーラの守護天だった。
 その事実に気づき、慌てて馬首を巡らせようとする騎士もいた。
 だが、既に召喚魔法は完成されていた。
「気高き天上の守護聖人たちよ、我の行く手を阻む邪悪に満ちた者どもを蹴散らすがよい!」
 アリシュアの両手が頭上で印を結ぶ。
 炎の乙女レリアスが宙を跳んだ。
 巨大な少女は、黒騎士たちの真上でその姿を自ら四散させた。
 炎の塊が四方八方に飛び散る。
 風の王セフィラが一回転し、風そのものと化す。
 疾風がレリアスの炎を煽った。
 風の援助を承けた炎の矢が、容赦なくカシミアの黒騎士団に襲いかかる。
 馬たちの嘶き。
 騎士たちの阿鼻叫喚。
 火の雨を食らい、カシミアの黒騎士団は先ほどまでの威勢をかなぐり捨て逃走し始めた。



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2009.06.16 / Top↑
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