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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.06.16[21:26]
「……貴……様っ……!」
 ギリギリとアーナスは奥歯を噛み締めた。
 哀しみと絶望感、そして猛烈な怒りが、瞬く間に心を巣くう。
「貴様……! 兄上を殺したのかっ!?」
 交錯する感情の中で、憤怒が何よりも勝った。
 哀しみよりも先に、目の前の悪魔に対する憎悪が激しく燃え上がる。
「兄上を……兄上をっ……!」
 アーナスの鋭い眼光を歯牙にもかけず、ラパスは不気味に微笑み続けている。
「アイラ兄上を殺したのかっ!?」
 怒りに委せてアーナスは地を蹴り、ローラを高々とラパスに向け翳していた。
 宙を舞う美しい銀の髪――それは紛うことなく、下の兄・アイラのものだった。
「アイラを野放しにしておくわれにはいかぬのでな」
 激しく打ち下ろしたローラを、ラパスが冷静にザハークで受け止める。
 カシャーンッッッ!
 刃と刃がぶつかった瞬間、ラパスがアーナスの腹部を蹴りつけてくる。
「貴様など、地獄に堕ちてしまえっ!」
 後ずさりながら態勢を立て直し、アーナスは恨みの籠もった呪詛を吐き出す。
 生死不明の兄――いつも心の片隅で、きっと生きている、と信じていた。
 だが、その唯一の希望は今、ラパスによって粉々に打ち砕かれたのだ。
 やり切れないほどの怒りだけが、アーナスを支配していた。
「地獄、か。それもいいだろう。但し、世界を道連れにな――」
 酷薄に微笑み、ラパスがアーナスの胴を目がけてザハークを水平に薙いでくる。
「貴様のせいで……父上や母上……兄上――キールの人々がっ……!」
 アーナスは咄嗟にローラを逆手に持ち替え、ザハークの攻撃に耐えた。
「貴様だけは……私の全てを懸けてでも、必ず斃すっっ!」
 ギラリ、とアーナスの両眼が鋭利に輝く。
 アーナスは押し迫るザハークの刃を強引に払い除けた。
「余のザハークは、そう簡単には破れぬぞ!」
 ラパスが態勢を立て直し、次の一撃を繰り出してくる。
「魔剣など――貴様ごと打ち砕いてやるっ!」
 鬼気迫る声音で叫び、アーナスはローラを振りかざした。
 カーン、カーンッ!
 ガキンッッ!
 数度打ち合いした後、二人は剣と剣を交えたまま動かなくなる。
 いや、動けなくなったのだ。
 互いの能力も宝刀の威力も、ほぼ同等。
 不毛な消耗戦にもつれ込むのは目に見えていた。
 体力と精神力を相手より早く失った方が負けだ……。
 無言の対峙が続く。
「――陛下っ!」
 それを打ち破ったのは、ラパスの親衛隊長ルシティナの声だった。
「陛下、戦況は我が軍に不利になりつつあります。そろそろ撤退するべきだと――」
 ルシティナが緊迫した表情で馬を駆けらせてくる。
「ギルバード・アーナスを斃せるかもしれぬというのにか?」
 ラパスが視線をアーナスに据えたまま、ルシティナに反問する。
「しかし、陛下。北の方角に新たなキール・イタール軍が……」
「チッ……! 援軍か」
 苛立たしげにラパスが舌打ちする。
 時を同じくして、
「アーナス様っ!」
 アリシュアがアーナスの元へやってきた。
「北のカシミア軍を討伐に行っていたミロ様とリオン様が、帰って来ましたわ!」
「――と、いうことは、北の我が軍は負けたか」
 アリシュアの報告に、ラパスが皮肉げに唇を歪める。
「よし、ルシティナ。撤退だ!」
 転瞬、ラパスは何の迷いもなく剣を引いた。
 その後の彼の行動は迅速だった。
 アーナスから離れ、ルシティナの馬の後ろに飛び乗る。
「兵士たちに伝令を出せ。――全軍速やかに撤退する!」
「はっ!」
 ルシティナがラパスを乗せたまま馬を走らせ始める。
「待て、ラパスッ!」
 アーナスは敏捷に馬を追った。
 滅多にない好機を逃してはならない。
 否が応にも心が急いた。
「ギルバード・アーナス! 続きは、また今度だ。それまで健在でいろ!」
 ラパスが振り向き、意味深に微笑する。
「ラパスッッ!」
 アーナスは叫んだ。
 だが、ラパスは二度とは振り向かない。
 視界の中でラパスの姿が徐々に小さくなり、終には消えてしまう。
 アーナスは最早追いつけないことを悟り、足を止めた。
「アーナス様!」
 アリシュアが傍に馬を寄せてくる。
「……顔色が優れませんわ、アーナス様」
 馬上からアリシュアの手が差し出される。
「平気だ」
 短く応じて、アーナスはアリシュアの手を取り、身軽に馬の背に乗り上がった。
「ラパスの首を獲り損ねてしまったな」
 ローラを鞘に納めながら、心から名残惜しげに告げる。
「そうですわね。……でも、ミロ様とリオン様が無事にお戻りになりましたわ」
 アリシュアの慰めるような声。
「ああ……」
 アーナスは軽く頷いた。
 それでも、その視線が、長い間ラパスの消えた方角から離れることはなかった……。


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