ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 キールの王都マデンリア近郊――
 
 漆黒の行軍が細長く続いていた。
 丘陵地の北から姿を現わしたミロとリオンの軍を迂回し、占拠したマデンリアへ帰途中のカシミア軍である。
「……風が冷たくなってきたな」
 ラパスは、風に靡く長い黒髪を片手で押さえながら誰に言うでもなく呟いた。
 戦の時には涼やかだった秋風が、今は寒々と感じられる。
「そうですね。早々と冬がやってくるかもしれません」
 ラパスの隣に従っていたルシティナが、空を仰ぎながら相槌を打った。
「見たか、ルシティナ?」
「――――?」
 唐突にラパスが話題を切り換えたので、ルシティナは小首を傾げた。
「ああ、しかとこの目で見ましたよ、我が王」
 一瞬後、ラパスが何のことを訊いているのか察して、ルシティナは深く頷いた。
「あれが、ギルバード・アーナス・エルロラだ」
 ラパスが口許に不敵な笑みを忍ばせる。
「全知全能の神エルロラの寵童――噂にたがわず美しく、勇ましい。全身全霊で余に立ち向かってくる、あの凄まじい眼差し。なんと激しく、熱いことか」
 賛美と驚嘆の入り混じった声。
「勇猛果敢な、烈光の女神。……余が、ギルバード・アーナスに結婚を申し入れたのは、あれの神の力と人望の篤さを、我が手中に納めておきたかったからだ。あれを手に入れれば、幾千幾万の民が無条件にあれに――ひいては余に従う。今日の今日まで、余は、あれを何としても我が手に、と思っていた。だが、相対して、気が変わった――」
 ラパスの表情から笑みが消失する。
 入れ替えのように、彼の美顔には冷酷無比な王の冷ややかさが漂った。
「あれが、余に与することは生涯ないだろう」
「陛下……?」
「あれは、燃え盛る炎のような勢いで余を憎悪している。余を殺さぬ限り、その激情が鎮まることはないだろう。生命の灯が燃え尽きるまで、あれは余を苦しめ続ける。生かしておけば、必ず余に仇なす」
 ラパスの黒曜石のような双眸に熾烈な光が輝いた。
「手に入らぬのならば、生かしておいても仕方ない」
 強い輝きの中に、野心と欲望が荒々しく渦巻いている。
「次に相まみれた時、余は必ずギルバード・アーナスを殺す」
 揺るぎない決意を込めた口調で、ラパスは断言した。
「それは構いませんが……しかし良かったのですか? キールの第二王子アイラは、我らが王都アリトラに――」
 躊躇いがちに、ルシティナが気遣わしげな視線を投げてくる。
「余は、ギルバード・アーナスに『アイラが死んだ』とは一言も告げてはいない。そう考え、思い込むのは奴の勝手だ」
 薄く微笑み、ラパスは鬱陶しげに風に靡く髪を掻き上げた。
「ギルバード・アーナスを故意に怒らせた、と……? まるで……王女に殺されたがっているみたいですね、陛下。時々、俺には貴方が死を望んでいるように見えます……」
 悲しむような響きを含んだルシティナの声が、風に掠れる。
 だが、それに対してラパスは何も応えなかった。
 ただ感情の籠もらぬ笑みを浮かべ続けている。
 ヒュルルルル……。
 冷たい北風が辺りを吹き抜けてゆく。
 ラパスは、ふと前方を見据えた。
「冷たい風だ。雪が降るかもしれぬな――」


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2009.06.17 / Top↑
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