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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.06.17[20:29]

 天幕の内部には、設えられた寝具の中で半身を起こし、薬湯らしきものを啜っているアーナスの姿があった。
 アリシュアの言葉通り、顔が透けるように白い。
「ミロ、あまり大声を出すな。中まで筒抜けだったぞ」
 アーナスは天幕に入ってきたミロを見て、開口一番注意するような言葉を放った。
「アーナス!」
 アーナスの言葉など耳に入れていない様子で、ミロがズカズカと接近してくる。
 彼は枕許に片膝を着くと、アーナスの頬に手を伸ばした。
「……酷い顔色だ」
 心底心配そうな眼差しを注いでくる。
「心配ない」
 アーナスは薬湯を床に置き、ミロの手を自分の手にとった。
「アガシャが説明してくれる」
 アーナスは視線をアガシャへ馳せて、彼の言葉を待った。
 ウォッホンと、もつともらしい咳払いを一つしてアガシャが一同を見回す。
「ミロ様。これは大変喜ばしいことですぞ」
 アガシャは如何にも厳粛そうに述べながら、顎から垂れる髭を指で撫でた。
「姫様は――ご懐妊しておられる」
「――えっ!?」
「まぁ! それで、お顔の色が――!」
 ミロとアリシュアの驚きの声が交差する。
 ミロは大きく見開いた双眸でアーナスを凝視した。
「懐妊、って……俺の子かっ!?」
「他に誰がいる?」
 アーナスは憮然とした表情でミロを見返した。
「そ、そうかっ……!」
 ミロの表情が徐々に驚愕から驚喜へと変化してゆく。
「俺の子かっ! 俺と……アーナスのっ!」
「私とおまえの子だ」
 アーナスは微かに笑みを浮かべて首肯した。
「……アーナス! アーナスッ!」
「うわっ!」
 唐突にミロに勢いよく抱き着かれて、アーナスは唖然と彼を見返した。
 だが彼は、アーナスの驚愕など眼中にないようだった。
 もがくアーナスをもろともせず、顔中に接吻の嵐を撒き散らしてくる。
「やっ、やめないか、みっともないっ!」
 アーナスは狼狽えながら抗議した。
 その頬は、羞恥の為か喜びのためか、ほんのりと赤く色づいていた。
「アーナス、愛してる」
「そんなことは、一々口外しなくても解って――――!?」
 ミロが喜々としてアーナスの唇を己が唇で塞いだ。
 力強いミロの腕と胸。
 包まれていると穏やかな気持ちになるから不思議だ。
 アーナスは抗うのを断念して、素直にミロに身を委ねた。
 アガシャとアリシュアが目配せし、無言で天幕を後にしたことに気付かないほど、二人は長い間深い口づけを交わしていた。



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