ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 時を僅かに遡った頃――
 雷天・瑠櫻(るおう)は、共の者をつけずに単身天空城へ向かう途中であった。
 側近たちからは『護衛をつけて下さい』と口を酸っぱくして注意をされるが、瑠櫻はそれらの全てを飄々とした笑みで躱していた。元来、独りで気儘に行動することが好きな質なのだから仕方がない。
 今も気軽に散策しながら天空城を目指していた。
 だが、視野に天空城の尖塔が飛び込んできた時、瑠櫻は意想外の人物と遭遇する羽目に陥ったのである。
 これには、楽天家の瑠櫻も流石に足を止めずにはいられなかった。
 瑠櫻の眼前に忽然と敵が現れたのである。
 瞬時に敵だと認識したのは、それが有り得るはずのない姿形をしていたからだ。
 敵は一人――しかも、顔見知りだ。
 敵手であることは間違いないのだが、瑠櫻の青緑の瞳にそれは単なる《敵》としては映らなかった。
 何故なら、瑠櫻の行く手を阻むように立ち塞がったのは、彼の先の妻――久摩利(くまり)だったのである。
 瑠櫻は、久摩利天の出現に対して素直に驚愕の表情を浮かべた。
 瞬きもせずに、じっと目の前の久摩利を見つめる。
 碧い髪と瞳――水の一族から瑠櫻の元へ嫁いできた、可憐で清楚な姫。
 彼女を娶ったのは、もう遙か昔――六百年近く前のことだ。
 そして、愛しい妻を失ったのは、四百年ばかり過去の出来事……。
 瑠櫻が戦場に赴いている間に、久摩利は病に冒されて呆気なく亡くなった。
 生きているはずがない。
 久摩利が再び瑠櫻に微笑みかけることはない。
 だが、敵の策略だと解っていても、かつて心底愛した女が動いている姿を目の当たりにすると困惑してしまう。
 心が揺らぐ――
 しばし無言の対峙が続いた後、瑠櫻は意を決して重い唇を動かした。
「久摩利に化けるとは――考えたものだな」
 揶揄を含んだ声を放つと、敵――久摩利が口の端をつり上げて艶笑した。
「ホホホホホ、何を言っているの、瑠櫻? 化けるだなんて……。わたくしは紛れもなくあなたの妻の――久摩利ですわ」
 久摩利が瑠櫻に向けて高笑いを浴びせる。
 それを聞いて、瑠櫻は眉根を険しく寄せた。いつもの軽薄な笑みはすっかり影を潜めている。
 亡き妻に対する冒涜を卑しげな嬌笑の中に感じ取った。
 久摩利に対する愚弄や嘲りは、瑠櫻の本性を露わにする。昔の自分に引き戻す。
 雷の一族は、元々気性が激しい戦闘部族なのだ。
 ひとたび戦になれば、炎の一族と比肩するほどの戦闘力を発揮する。
 その王たる瑠櫻はもちろん荒ぶる気質を備えていた。
 だが、瑠櫻は久摩利を失ってからは、熱くなることも烈しくなることも放棄し、日々のうのうと過ごしてきた。
 闘争本能や競争心などは笑顔と不真面目な態度の中に封印し、適当に生きてきた。
 なのに、目の前のこの忌々しい敵は、あろう事か久摩利の姿で現れたのだ。
 瑠櫻の神経を逆撫ですることを承知の上の策なのだろうが、腹立たしいことこの上ない。
「久摩利は、おまえのように高飛車な女じゃない」
 瑠櫻が憤然と吐き捨てると、久摩利は露骨に不愉快そうな顔を見せた。
「あなたと別れてから四百年もの時が流れているのです。わたくしとて、少しは変わりますわ」
「何処が《少し》だよ……。オレはね、他人をからかうのは大好きだけれど――他人に茶化されるのは大嫌いなんでね。悪いけど――消えてくれないかな?」
 瑠櫻は、久摩利に向けてニッコリ微笑んで見せた。笑顔の中で、双眸だけが冷厳な光を宿している。
 久摩利の中身が本物ではないことくらい重々承知している。
 四百年前に昇華した久摩利が甦ることなど、有り得ない。紫姫魅の手の者が、瑠櫻に弱点を突くために久摩利の姿を象っているとしか考えられなかった。しかも、本物とは程遠い高慢な性質と態度を以てして……。
「消えないなら――殺っちうよ? オレ、今、物っ凄く機嫌が悪いから」
 瑠櫻は薄笑みを湛えたまま、腰に帯びている剣を鞘から抜き払った。
 流れるような動作で、剣の切っ先を天空へと向ける。 
 転瞬、碧天から迸った雷閃が久摩利の足許へと豪快に突き刺さった。



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2009.06.18 / Top↑
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