ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 静謐とした夜が帳を降ろしていた。
 嵐の前の静けさを想起させるような、穏やかな夜だった。
「……ルーク・ベイ」
 ローズ・マリィは、大きく張り出した露台から煌めく夜空を見上げ、祈るように呟いた。
 脳裏に、褐色の肌の少年が浮かび上がる。
 自分と同じ年頃なのに、既に剣士としての頭角を現わしつつある少年。
 暇さえあれば自分の元を訪れ、明るく笑う、屈託のない少年。
 優しさと強さを兼ね備えている少年の存在は、頼もしくもあり、眩しくもあった。
 いつの日からか、少年の訪問を待ち侘び、傍にいるだけで胸が高鳴るようになっていた。
 これが『恋』というのならば、自分にとっては大切な初恋だった。
 漆黒の髪を指で梳き、褐色の肌に触れ、口づけたいと幾度となく想った。
 だが、それは永遠に叶わぬ望みとなってしまったのかもしれない……。
「ローズ・マリィは……明日、ラパス王に嫁ぎます」
 そっと瞼を閉ざす。


「……様……マリィ様――ローズ・マリィ様」
 不意に、露台の下で怪しげな物音と声がしたので、ローズ・マリィは驚きに慌てて瞼を跳ね上げた。
「ローズ・マリィ様」
 聞き慣れた優しい声が、切ない響きを孕んで自分を呼んでいる――求めている。
「――ルーク・ベイ!?」
 ローズ・マリィは躊躇わずに露台から身を乗り出し、下を覗き込んだ。
 月光に照らされた花園に、一つ年下の少年剣士が佇んでいた。
 非難よりも、驚きよりも、何よりも――嬉しさと愛しさが込み上げてくる。
「ローズ・マリィ様。明日……ドレイクへ出立されると聞きました」
 ルークがローズ・マリィを見上げ、寂しそうに言葉を口にする。
「その前に一目お逢いしたくて。身分違いなのは承知してます。だけど、僕は――」
 黒い真摯な双眸がローズ・マリィだけを見つめている。
「ルーク! 解ってる……解ってるわ!」
 ローズ・マリィは鋭い痛みを発し始めた胸を片手で押さえながら、懸命に頷いた。
 ジワッと目頭が熱くなり、視界が不明瞭になる。
「ローズ・マリィ様、あなたが好きです」
 ルークが率直に告白してくる。
「ええ……ええ! わたくしもよ、ルーク!」
 ローズ・マリィは努めて明るく微笑んだ。
「あなたが好き。大好きよ! ラパス王の花嫁なんて――本当は、嫌っ!」
「僕も、今すぐあなたを連れて逃げたい」
 ルークがローズ・マリィに向けて両手を差し出す。
「ルーク!」
 ローズ・マリィは、更に露台から身を乗り出した。
 あの手を取れば――あの手に縋れば!
 この身はルークの愛を得られるだろう。
 しかし、自分は……。
 涙がとめどなく溢れ出す。
「ルーク!」
 ローズ・マリィは意を決し、片膝を手摺の上に引き上げた。
「姫様!」
 残る一方の足も手摺に乗せようとした時、後ろから強く腕を掴まれた。



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2009.06.18 / Top↑
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