ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「なりませぬ、姫様!」
 侍女のメイファが、蒼白な顔でローズ・マリィを引き止めていた。
 話し声を不審に感じて、様子を見に来たのだろう。
「姫様。どうか、どうかご自制を――」
「メイファ、お願いよ。……解ってるの。解ってるのよ。明日、ラパス王の元へ行くことは……。でも、心の何処かでルークが現れてマリィを攫ってくれればいいのに――って思ってた。だから、マリィは……ルークの姿を見た時、とても嬉しかったのよ」
 ローズ・マリィは、恐れ怯える侍女に優しく微笑んでみせる。
「ルークが好きなの。お願いよ、メイファ。ルークもわたくしも、ちゃんと解ってるわ。逃げたりしないわ。お願い、最初で最後かもしれないの――」
「姫様。……おお、姫様」
 メイファが首を横に振りながらもローズ・マリィから手を離す。
「そんなにお泣きになりませぬように。美しいお顔が台無しです」
 メイファの指がローズ・マリィの頬を伝う涙を拭う。
 次にメイファは、露台の下のルークに視線を当てた。
「お二方とも、明朝はいつもと変わらぬようにお振る舞い下さい。――剣士殿、このことは他言無用ですよ」
「はっ、はい、侍女殿!」
 ルークの顔がパッと輝く。
「メイファ?」
 ローズ・マリィは驚愕の眼差しをメイファへと向けた。
「このメイファ一人が口を噤めば、誰にも知れぬことです」
 メイファの顔に優しい笑みが浮かぶ。
「ありがとう!」
 ローズ・マリィはメイファに抱き着き、心からの感謝を述べた。
 メイファは寛大な心で認めてくれだのだ。
 自分のままならぬ初恋――それでいて抑え切れない熱情を。
「姫様……姫様はメイファにとっては、この世でただお一人の大切な御方です。その姫様の御心があの剣士殿にあるのならば――行って、想いを遂げなされませ、姫様」
 メイファが限り無く穏やかに微笑む。
 彼女は深々と一礼すると、恋人たちの邪魔をしてはいけない、というように素早く露台から姿を消してしまった。
「……ありがとう、メイファ」
 ローズ・マリィはもう一度メイファに礼を述べ、今度こそ手摺の上に飛び乗った。
「ローズ・マリィ様!」
「受け止めて、ルーク!」
 ローズ・マリィは、逡巡せずに手摺から宙へと身を投げ出した。
「ローズ・マリィ様!」
 ルークの両手が、しっかりと自分を抱き留めてくれる。
 二人はそのまま花園へと転がり込んだ。
「好きよ、ルーク!」
 ローズ・マリィはルークの首に両手を回し、その唇に接吻した。
 恋い焦がれた少年が、自分の腕の中にいる。
 とてつもない至福――歯止めのきかぬ熱い想いが心を支配していた。
「愛してます、ローズ・マリィ様」
 ルークはローズ・マリィを優しく花園へ横たえ、熱っぽく囁く。
「ローズ・マリィ様」
 ルークが口づけと同時にローズ・マリィを強く抱き締める。
「僕に、もっと力があれば――僕が王族だったら……! 僕がもっと大人だったら――あなたをラパスなんかに渡しはしないのに!」
 ルークの口から血のような叫びが放たれる。
 地位も名誉もなく、未熟な己れを、彼は心の底から憎んでいた。
 これが、あと五、六年――いや、二、三年後の出来事だったならば、それなりの地位を得て堂々とローズ・マリィに求愛することも可能だったかもしれない。
 ミロがそうしたように、愛する女性をラパスに奪われることなく、護り、愛せたかもしれないのだ。
 己れに対する歯痒さがルークの全身から立ち上っていた。
「ルーク……言わないで。そんなこと言わないで。マリィはあなたが好きよ」
 ローズ・マリィはルークの黒髪を愛しげに撫でる。
「今も、未来も、それは変わらないわ。マリィが愛するのは、生涯あなただけ。ルーク以外は、もう誰も――ラパス王でさえ、わたくしに触れさせはしないわ」
 ローズ・マリィは両の瞳から透明な液体を流し、確固たる意志をもって断言した。
 自らルークを抱き寄せ、口づけを交わす。
「愛してる……愛してるわ、ルーク!」
 ローズ・マリィは、何度も何度も愛の言葉を繰り返した。
 このまま愛するルークと空気に溶けてしまいたい。
 もう、永遠に在りえないかもしれない至極の幸福……。
「愛してるわ、ルーク――」
 ルークに身を委ねながら、静かに瞼を閉ざす。
 噎せ返るような花の芳香が、ローズ・マリィを包み込んだ――

 
     *


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2009.06.18 / Top↑
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