ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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  Ⅰ



 広大な宇宙空間が巨大モニターに映し出されている。
 色とりどりに輝く星辰を眺めながら、ミシェル・ギルフォートはその美しさに溜息を落とした。
 宇宙は見慣れている。
 だが、この銀河を観るのは初めてだ。
 今までミシェルは、銀河系から出たことなどなかったのだ。
 地球を有する太陽系と、太陽系を含む銀河系の中なら幾度も旅行したし、補佐官養成学院の訓練で様々な惑星を巡ったこともある。
 しかし、近年発見された、この銀河?系を訪れるのは初の出来事だった。
 五世紀も前に発見された銀河?系にすら行ったことがないのに、よもや自分が銀河?系に飛ばされることになろうとは予測もしていなかった。
 ――こんなはずじゃなかったのに。
 宇宙船スクルドに乗り、地球を出発してから約二ヶ月――そんな想いがずっとミシェルの胸中に蟠っていた。
 全ては、カケル・アマミヤが悪いのだ。
 だが、彼ばかりを責めているわけにもいかない。
 運がなかったのだと諦め、今の境遇を受け入れるしかない。
 カケルは自分の主であり、自分は彼の補佐官なのだから……。
「カケル隊長」
 ミシェルは沈みかけた気分を払拭するようにかぶりを振り、モニターから視線を外した。
 背を返し、大切な主人に目を向ける。
 カケル・アマミヤは眠っていた。
 イスに深く腰かけ、長い脚をデスクの上に投げ出した態勢で目を瞑っている。
 そのだらしない姿を見て、ミシェルは頬を引きつらせた。
 カケルは明らかに職務を放棄している。
 やる気というものが全く欠如しているのだ、この主人は。
 ミシェルはわざと足音を響かせながらカケルに歩み寄り、彼の顔を覗き込んだ。
「いつまで寝た振りをしてるんですか?」
 耳元で囁くがカケルは微動だにしない。
 ミシェルは眦を吊り上げて、彼を睨んだ。
「起きて下さい、アマミヤ少佐!」
 揶揄たっぷりに大声を張り上げると、カケルの瞼がパッと開いた。
 黒曜石のような双眸がじろりとミシェルを見上げる。
「嫌味か、それは?」
「はい。――嘘寝は禁止です、アマミヤ少佐」
 ミシェルが即答するとカケルは大仰に溜息をつき、不承不承といった様子で姿勢を正した。
「少佐なんて呼ぶなよ。今の俺は、そんないいもんじゃない。《太陽系同盟軍辺境調査局第七調査隊指揮官》という、異常に長ったらしい肩書きの持ち主だ」
「軍法会議で階級は剥奪されなかったんですから、少佐と呼んでもいいじゃないですか」
 辺境調査局の青い制服を恨めしげに眺め、ミシェルは更なる嫌味を放った。
 銀河?系が発見され、人類が新天地を求めてそこへ旅立ったのが五世紀前――二十五世紀末の出来事だった。
 人類は二つ目の銀河を手に入れたのだ。
 だがそれは、現在まで延々と続く宇宙間戦争の起因となった。
 およそ百年前、銀河?系に移住した人々が銀河系の支配と干渉を拒絶し、独立宣言を行ったのだ。
 それ以来、銀河系と銀河?系は対立関係にある。
 銀河?系の支配権を争う戦は、三十世紀を間近に控えた今もなお続いていた。
 銀河?系の叛乱を鎮めるために、地球を含む太陽系の惑星は同盟関係を結んだ。こうして結成されたのが、太陽系同盟軍なのである。
 三ヶ月前までのカケルは、太陽系同盟軍第三艦隊所属の敏腕少佐だった。
 しかし、どこで道を誤ったのか上司と大喧嘩し、挙げ句その上司を殴り倒してしまったのである。
 結果、彼は軍法会議にかけられ、辺境調査局に飛ばされた。
 辺境調査局も軍の組織には変わりない。だが、その実体は、軍内部の厄介者ばかりが集められるお払い箱なのである。
 つまり、カケルは体よく左遷されたのだ。
 ミシェルがカケルの元へ赴いたのは、軍法会議が終了した直後のことだった。
 その時点で、ミシェルの未来は閉ざされた。辺境調査局に異動ということは、この先カケルの昇格は絶対に有り得ないということだ。辺境調査局は軍人の墓場なのだから。
「何をむくれてるんだ?」
 カケルの不機嫌な眼差しがミシェルに向けられる。
「むくれてなんかいません。ただ、エリート将校の道を歩んでいたはずの隊長の現状を慮ると、悲しくなっただけです」
「オイ、嫌味も程々にしとけよ」
 うんざりしたようにカケルが言う。彼はミシェルに棘のある視線を投げ、そこで何かに気づいたようにふっと目を細めた。
「おまえ、いくつだっけ?」
「十八歳になったばかりです」
 唐突な質問を不審に思いながらも、生真面目に答える。
 すると、カケルの両眼に驚愕の色が浮かび上がった。
「十八!? ……そうか、十八なのか」
「はい。何か問題でもありますか?」
「いや、俺はてっきり十四、五のガキだと思ってた。おまえ、胸がなさ過ぎ――」
「サイッテー!」
 最後まで聞き終えないうちにミシェルは手近にあった書類を引っ掴み、カケルの頭を殴打していた。



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2009.06.19 / Top↑
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