ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 アーナスが予見した通り、ローズ・マリィの遺体がレイ城に戻された翌日、ラパスは大軍を率いてエカレシュへ攻め込んできた。
 カシミア軍による大規模なイタール王都侵略に対し、老練のグレスティ将軍をはじめ、フレイ将軍、レギオン国王直属軍などが、生命を懸けて王都を護り抜こうとラパスの軍に立ち向かった。
 だが、ラパスの猛威を揮う攻撃は激しく、時に柔軟で奇抜に、キール・イタール軍を攪乱し、翻弄していた。

『カシミア軍、圧倒的優勢』

 その状況が転覆せぬまま、今、レイ城の城門が開かれようとしていた――


     *


「アガシャ! ルークッ!」
 レイ城の廊下を足早に歩きながら、アーナスは声高らかに叫んだ。
「アガシャ! ルーク!」
 襲い来るカシミア軍に恐れ、怯え、泣き叫びながら、城内を行き来する人々。
 それらを器用に躱わしながら、アーナスは自分の従者の名を叫び続ける。
 その神々しい全身には、緊張の糸が張り巡らされていた。
 凄絶な鬼気と殺気が身の裡から滲み出ているのだ。
「ルーク! いないのかっ!?」
 アーナスは血の滴る左手に布を巻きつけながら、一心に廊下を突き進む。
「アーナス、こっちだ!」
 やはり肩から出血しているミロが別の廊下から姿を現わし、アーナスを呼んだ。
 その腕には、生後二ヵ月になる息子――ロレーヌが大事そうに抱かれている。
「ミロ、怪我は?」
「大事無い! ルークたちは謁見の間に移動させた」
 僅か一瞬笑顔を見せたミロだが、それはすぐに切羽詰まった表情へと切り変わった。
 ミロがアーナスの先に立ち、謁見の間へと続く廊下を急ぐ。
「ロレーヌ、赦せ……」
 アーナスは切ない眼差しを愛する我が子へと注いだ。
 ミロの腕の中で赤ん坊は大きく目を見開き、アーナスを見つめている。
 ミロと同じ美しい翡翠の瞳だった。
「頼まれていた、ローラの偽物だ」
 ミロが足を止めずに、アーナスに向かって一振りの剣を差し出した。
 黄金の鞘も柄もローラに酷似している。
 アーナスは偽のローラを受け取り、それを鞘から抜き出した。
 本物のローラも抜き取り、素早く偽物と擦り替える。
「ローラ……いつの日か、新たな主人を己が意志で選ぶがいい」
 偽の鞘に納まったローラに、アーナスは短い言葉を手向けた。
 意味深な言葉は、決別の証しだ……。
 二人は密かな決意を胸に秘め、謁見の間へと急ぐ。
 言葉はなくとも、二人の心が同じなのは互いに理解し合っていた。
「着いたぞ、アーナス」
 ミロが巨大な扉を力任せに引き開ける。
 瞬間、四対の眼差しがアーナスとミロに集中した。
 室内には、リオンとアリシュア、そしてアガシャとルークの姿があった。



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2009.06.20 / Top↑
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