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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.20[00:52]
「アーナス様!」
「ミロ様っ!」
 皆が、驚愕と不審の眼差しをアーナスとミロへ注いでくる。
 ミロは急いで扉を閉め、アーナスと共に彼らの元へ歩み寄った。
「ミロ、どうゆうことだ!? 戦中に、私たちをここへ招集するなんて!」
 開口一番、リオンが納得のいかない口調でミロに詰め寄ってくる。
 ミロは兄を見つめ、心を決めたようにゆっくりと口を開いた。
「兄上たちには、玉座の下の通路から城外へと逃げていただく」
 何人の抗議をも受け付けないような厳しい声音が、ミロの口から出ずる。
 何処の城にも、火急の事態に備え、脱出用の隠し通路が設けられているものだ。
 レイ城の隠し通路は、謁見の間――国王の玉座の下に隠蔽されていた。
「何を言っているのだ、ミロ。私たちに、戦わずして逃げろ、と――?」
 リオンが心外そうに弟を見遣る。
「……そうです」
 ミロはゆるりと首肯した。
 翡翠色の眼差しが、チラリとアーナスへ流される。
 アーナスは了解したように彼の言葉を引き継いだ。
「先ほど、レギオン陛下が戦死なさいました」
「――――!?」
 もたらされた凶報に、一同が金縛りに遭ったように凍りつく。
「間もなく、城門はカシミア軍によって打ち破られ……城内には怒濤のようにカシミア兵が押し寄せてくることでしょう」
 無情にもアーナスは淡々と事実を述べた。
「その前に、兄上たちは城から脱出して下さい」
「待って、ミロ様!」
 アリシュアが蒼白な顔でミロに駆け寄ってくる。
「ミロ様とアーナス様は残るのでしょう? わたくしも残留し、共に戦います!」
 必死の形相でアリシュアはミロに食い下がってくる。
「僕もアーナス様の傍で一緒に戦います。――ローズ・マリィ様のためにも!」
 ルークが真摯な眼差しでアーナスをじっと見つめる。
 その隣で、アガシャが同意を示すように深く頷いた。
「姫様。まさか、爺を突き放すつもりではありませぬな? 爺は、姫様の傍を離れるつもりは毛頭ありませんぞ。もし、爺に逃げろと言うのならば、どうか姫様も――」
 嘆願するように、アガシャが申し出る。
 アーナスは皮肉げに唇の端を歪め、首を横に振った。
「私は行けぬ。……既に去年、私は我がキール城から逃げ出している。私に……ギルバード・アーナス・エルロラに――二度目はない!」
「姫様っ!」
「アーナス様――」
 アガシャとルークが目を剥き、非難するような眼差しでアーナスを凝視する。
 アーナスは二対の視線を堂々と正面から受け止めた。
「おまえたちは、リオン殿とアリシュア殿と共に城から抜け出ろ。……これは命令だ。逆らうことは赦さぬ。二人を御護りしろ!」
「アーナス様! わたくしは戦えますわ!」
 アリシュアが押し黙ったルークとアガシャに代わって反論する。
「義姉上。あなたのお腹には大事な御子がいらっしゃる。その子をどうか大切に。――解りますね、義姉上、兄上」
 ミロが気遣わしげにアリシュアの腹部に視線を当てる。
「……ミロ」
 リオンが悲哀に満ちた表情を浮かべ、弟を見つめた。
 ミロは兄と向かい合い、腕に抱くロレーヌを丁寧に彼へと差し出した。
「ロレーヌをよろしくお願いします」
 ミロの顔に微かな笑みが浮かぶ。
「私からも、よろしくお願いする。リオン殿、アリシュア殿。我が子ロレーヌを――」
 アーナスは二人に向かって深々と頭を垂れた。
 リオンとアリシュアが、戸惑いに顔を見合わせる。
 重苦しい沈黙。
 やがて――
「……解りましたわ、アーナス様、ミロ様。この子は、イタールとキール――双方の正統な王位継承権を持つ高貴なる御方。大切に御護り致しますわ」
 アリシュアが快く承諾するように、穏やかな笑みを湛える。
「おまえの子は、私の子だ、ミロ」
 リオンがミロの腕から布に包まれたロレーヌを受け取る。
「感謝します、兄上。いつか再見する、その時まで――」
 ミロは左の薬指から指輪を外し、リオンへ授けた。
 イタール王家の紋章が刻印された指輪――王族の証しである。
「再び出逢う、その日まで……。私からはこれを――」
 アーナスは手首から黄金細工の腕輪を取り外し、リオンへ手渡す。
 こちらは、キール王家の紋が入っている腕輪だった。
 アーナスとミロは、リオンとアリシュアに息子の未来を託したのだ。
「……姫様」
 アーナスがキール王家の紋章を外したのを見届けて、アガシャが嘆かわしげに呟く。
「案ずるな。私は死にはしない」
 アーナスは誇らかに微笑んだ。
「リオン殿とアリシュア殿――そして我が子ロレーヌを護ってくれるな、二人共?」
「はい、アーナス様……。この生命に換えましても」
 ルークが決意したように一礼する。
「姫様……おお、姫様……」
 アガシャは皺の奥に埋もれた双眸に涙を浮かべ、何度も何度も頷いた。
「ルーク、これを持っていけ!」
 アーナスはルークの手に一つの剣を押し付けた。
「……これは……ローラ――?」
 黄金の鞘に包まれた、豪華な剣。
 それを目にして、ルークが怪訝な声音で呟いた。
「ロレーヌの誕生祝いに、ローラに似せて造ったものだ。安心しろ。本物はこっちだ」
 アーナスは自分の腰に帯びた剣を軽く抜いて見せる。
 美しい輝きを放つ、水晶のような刃が眩く煌めいた。
「本当だ。この鞘と柄が本物そっくりだから、びっくりした」
 ルークが安堵したようにホッと息をつく。
 アーナスはルークが納得するのを見届け、剣を鞘へと納めた。
「ロレーヌのための剣だが、使いたかったら使っていいぞ」
「そっ、そんな、滅相もない!」
 ルークは慌てて首を横に振り、預かった剣を腰へ携帯した。
 ドォォォォォォォォンッッッ!
 不意に大きな激突音が轟き、衝撃が城を揺るがした。
「――急げ、城門が突破されるぞ!」
 アーナスは鋭く瞳を輝かせ、玉座へと急いだ。
 ミロと共に渾身の力を込めて玉座を移動させる。
 玉座の据えられていた位置に、地下へと続く階段が忍んでいた。
「皆、早くっ!」
 ミロが険しい表情で叫び、四人を促す。
「ミロ、愛しい弟よ。いつか……再び逢おう!」
 リオンがロレーヌを抱え、入口へ飛び込む。
「ロレーヌは必ず御護り致しますわ!」
 次にアリシュアが、先を行くリオンに片手を引かれるようにして階段を降りた。
「……姫様……姫様!」
「アガシャ様、先に!」
 ルークは、涙を流しアーナスの傍を離れようとしないアガシャを半ば強制的に入口へと押し遣った。
「アーナス様! いつの日か、必ず――キールへ帰りましょう!」
 ルークが泣き笑いの表情でアーナスを見つめる。
「姫様。懐かしき、我らがキールへ……!」
 アガシャが階段の入口からアーナスを見上げ、ルークと同じような言葉を紡いだ。
 アーナスは、心を落ち着かせるように大きく息を吸い込んだ。
「ルーク、アガシャ。ロレーヌを頼む。……そんなに心配そうな顔をするな、二人共。ラパスを討ち取り、カシミア軍を追っ払ったら、すぐにでもおまえたちを呼び寄せる。これは永遠の別れではない――再会のための別離だ」
 アーナスは努めて明るい笑顔を二人の寵臣へと送った。
 己が言葉の真実味のなさに、心が鈍い痛みを発する。
 ドォォォーンッ!
 ドォォォーンッッ!
 カシミア軍による城門粉砕を試みる音が、果てしなく繰り返されている。
「――行けっ!」
 アーナスは一切の感情を押し殺し、厳格に命じた。
「はい、アーナス様!」
「姫様、姫様……爺は……!」
「行きましょう、アガシャ様!」
 ルークがアガシャを庇護するようにして階段を降りて行く。
 直ぐ様、二人の姿は仄暗い通路の中に溶けた……。
「姫様……ひめさまぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
 姿の見えないアガシャの叫びが、アーナスの胸を鋭利に突き刺した。



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