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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.20[00:56]

「……赦せ……赦せ……」
 アーナスは震える声でそう言うのが精一杯だった。
 碧い双眸からは知らずの内に涙が流れ落ちている。
「私は……もう……キールへは……」
「アーナス――」
 ミロの手がそっと肩を抱き、額に軽く口づけてくる。
「解っている」
 アーナスは頷き、玉座に手をかけた。
 ミロと力を合わせ、秘密路を隠すために玉座を元の位置に戻す。
 ドォォォォォォォォォォンッッッッッ!
 ほぼ同時に、一際凄まじい轟音が城中に響き渡った。
 訪れる衝撃。
 人々の阿鼻叫喚。
「城門が開かれた!」
「カシミア兵が襲ってくるぞっ!!」
 恐怖と戦慄に震える兵士たちの叫び声。
「城門が破壊されたか……」
 ミロが玉座から離れ、外の様子を窺うように扉へと接近した。
「ラパス王だっ!」
「破壊の魔王がやってくるぞっ!」
 遠巻きに聞こえてくるのは、戦士たちの逼迫した悲鳴ばかりだ。
「……アーナス――」
 徐にミロがアーナスを振り返る。
「とうとう二人きりになったな」
 ミロの顔には静穏な笑みが浮かんでいた。
「私は、幾千幾万もの人々の屍の上に立っている。私はラパスと同じ鬼――悪魔だ」
 アーナスは僅か一瞬瞼を閉じ、それを跳ね上げると、ミロの端正な顔を食い入るように見つめた。
「それを承知で、私は今一度――修羅と化そう。ラパスを討つために。それでも、おまえはまだ……私を愛してくれるのか?」
「もちろん。愛してるさ」
 ミロが躊躇いの欠片もなく、微笑みながら応える。
「昔、誓っただろう?」
 ミロの手がアーナスに向けて差し出された。
「共に歩もう、アーナス」
「――――」
 アーナスは、信じられぬ思いでミロと差し出された手を見比べた。
 ――この男は、これほどまでに私を愛し、私と共に荊の道を歩んでくれるというのか?
 胸が痛い。
 壮絶な痛みを発している。
 狂おしいほどに、ミロが愛しい――
「……共に……共に、ミロ!」
 アーナスは涙に濡れた瞳でミロを見上げた。
「死が二人を別つまで――」
 指と指、手と手、心と心が、触れ合った――



「アーナス様!」
「殿下、お逃げ下さい! 最早、落城は免れませんっ!」
 謁見の間から外へ飛び出したアーナスとミロを、兵士たちの驚愕の叫びが迎えた。
「落城が免れぬのなら、今更逃げても仕方ないだろう」
 ミロは達観したように述べ、冷静に剣を抜き払った。
「殿下っ! 何を――?」
「アーナス様と共にお逃げ下さいっ!」
 兵士たちが困惑の叫びをあげる。
「脱出など――無用だ」
 アーナスは周囲の兵士を見渡し、ミロ同様ゆっくりと剣を手に取った。
「おおっ、ローラが!」
「アーナス様が神の剣をお取りになった!」
 輝く透明な剣を目の当りにして、兵士たちが勇気づけられたように歓喜の声を響かせる。
 その『ローラ』が偽物であるのを知る者は、アーナスとミロしかいない……。
「まだ戦う意志のある者は、私についてこいっ!」
 アーナスは偽のローラを高く掲げ、宣言した。
「最後の戦いだ。次はない。――我、ギルバード・アーナスはエルロラの名の許、この神剣ローラでラパスを討つ!」
「アーナス様っ!」
「エルロラ様!」
 歓声が巻き起こる。
 ――最後の……最後の道外芝居だ……!
 アーナスはグッと奥歯を噛み締めた。
「我に――ロレーヌに、エルロラの加護あれ!」
 自分が翳すのは、神の剣などではない。
 神の加護などないのを知りながら、アーナスは激乱の渦の中へ身を投じた――


     *



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