ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
「瑠櫻っ!」
 凛乎とした声が耳に浸透する。
 瑠櫻にとっては聴き慣れた声であり――勝利の女神。
 白王にとっては、おそらく途轍もなく邪魔な闖入者に違いない。
「絶対にその女を逃がすなっ!」
 怒気を孕ませた声と共に、瑠櫻の視界に一人の女性が現れる。
 碧い髪と碧い瞳の――美しい女。
 強い意志を秘めた眼差しがじっと瑠櫻を見つめた。
 強く、逞しく、活き活きとした魂の持ち主。
 その身に水の守護を受ける、貴き天女――
「水鏡……」
 瑠櫻は自然とその名を口ずさんでいた。
 碧い髪を微かに揺らし、女――七天が一人、水天・水鏡(みかがみ)が頷く。
「その女は、蘭麗を殺したのだよっ!」
 水鏡が溢れんばかりの憎悪を漲らせ、白王を睨めつける。
 見えない刃が白王に突きつけられた。
「――如何にも」
 だが、向けられた方の白王はニィッと唇をつり上げて微笑んだ。それがどうした――とでもいうように。
「蘭麗を――殺した、だと?」
 瑠櫻は改めて白王を見据えた。
 当然、蘭麗を殺害したのは紫姫魅の配下であることは解っていた。目の前の白王がその張本人であるというのならば、もう情けをかける気は微塵もない。
 空天・迦羅紗と地天・蘭麗は、瑠櫻にとっては同期――永き時を共に過ごしてきた仲間なのだ。水鏡たちも同じ七天ではあるが世代は異なる。
 瑠櫻の裡で迦羅紗と蘭麗に対する想いは、また格別なものがあるのだ。
 今よりも遙かに世界が荒み、妖魔が跋扈する時代からずっと――戦場に赴き、共に闘ってきたのだ。
 遠い、遠い昔から数多もの妖魔を斬り、妖魔に与する叛乱分子を討伐してきた。
 血に塗れながらも剣と心を一つにして道を切り開いてきた――掛け替えのない戦友なのだ。
「この女は、止めを刺さなくても死に逝く蘭麗の胸に、剣を突き刺したのだよ!」
 水鏡が激しい語調で言葉を連ねる。
 おそらく、彼女は《水鏡》と繋がっている時に、その光景を目撃してしまったのだろう。
「迦羅紗はね――アイツはいいんだ。アレは……好きで蘭麗の後を追ったに決まってるんだから」
 瑠櫻は微苦笑を湛えた。
「でも、蘭麗にわざわざ止めを刺したのは気に食わないね。アレは、おまえなんかが足下にも及ばないほど、いい女だった――」
 剣を持つ瑠櫻の片手がスッと挙がる。
 切っ先がピタリと白王の胸を指す。
「蘭麗を殺め、久摩利を侮辱した罪は重いよ。死して、その罪を贖え」
 瑠櫻は、普段の軽薄さが嘘のような凛々しい双眼で白王を射抜き、荘厳な響きを宿す声音で宣告した。
 他の選択肢はおまえにはない、と――
 瑠櫻は敏捷に地を蹴った。
 白王に驚く暇すら与えずに、彼女の懐に飛び込む。
 驚異的な速さで剣が袈裟懸けに振り下ろされる。
 張り裂けんばかりに見開かれる白王の双眸。
 噴き上がる血潮――
 瑠櫻は流れる剣の動きを一旦止めると、迅速に柄を逆手に持ち替えた。
 もう一方の掌を柄頭に押し当て、そのまま一息に白王の左胸目がけて剣を突き出した。
 一片の情けもなく、凄まじい勢いで心臓を貫く。
 黄金色の冷光が、瑠櫻の全身を淡く輝かせていた。
 雷天という名に相応しい、金色の神々しい煌めき。
 光と同じ色の髪が陽炎のように揺らめく。
 瑠櫻の青緑の瞳が冴え冴えとした光を湛え、唇が冷笑を象った刹那――
 摩訶不思議なことに、雲一つ無い紺碧の空が雷鳴を轟かせた。
 天空から黄金色の閃光が迸る。
 まるで神の裁きだと言わんばかりの苛烈さで、稲妻は白王を直撃した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
 白王の喉から断末魔の悲鳴が飛び出す。
 苦悶の叫びと黄金の雷光が消えた時には、白王の姿も跡形もなく消滅していた。
 彼女は、その身を天界に残すことも赦されず、瞬く間に灰燼に帰したのだ……。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.06.20 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。