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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.20[10:12]
 刹那、時が止まった。
 一切の音が遮断される。
 ――あれは……何だ?
 アーナスは心の中で自問した。
 ――ミロの胸から飛び出す、あの鋼は……一体何だ?
 アーナスの視線は、ミロの胸に釘付けにされて離れない。
 ミロの胸から先端の尖った鋭利な刃物が生えているのだ。
 それが、背中から胸へと貫通した槍の刃だと理解するのに、長い時間は要しなかった。
「……あっ……いや……だっ……! 嫌だ、ミロッッ!」
 アーナスは混乱状態に陥りながら闇雲に叫んだ。
「……アーナス」
 ミロが震える手で強くアーナスの腕を掴む。
 最期の力を振り絞っているような辛そうな声に、アーナスは慄然とした。
「怪我は……ないか……?」
 訊ねるミロの唇の端から血が滴っている。
「……あっ……ああ」
 アーナスは茫然と頷いた。
「そうか……良かっ……た――」
 ミロの顔に、心底安堵し、喜ぶような微笑みが浮かぶ。
「アーナス……ラパ……スを――ぐっ!」
 不意にミロの口から血の塊が吐き出され、アーナスの手から彼の手が滑り落ちた。
 ひどくゆっくりとミロの身体が傾き、床に崩れ落ちる。
「ミロッ? ミロッ!」
 アーナスは慌てて床に膝をつき、ミロの顔を覗き込んだ。
 生気の失われつつある蒼白な顔が、胸に鋭利な痛みを与える。
「ミロ、逝くなっ。私を……私を置いて逝くなぁぁぁっっっ!!」
 アーナスの両眼から透明な液体が零れ落ちる。
「……アーナス……行け……ラパスの――」
 血だらけの唇が、小さな囁きを紡ぐ。
 言葉の最後を告げる間もなく、口から大量の血が吐瀉される。
 すぐに虚ろな翡翠の双眸が閉じられた……。
「ミロッッ! ミロォォォッッッッ!!」
 アーナスの唇から絶叫が迸る。
 愛する男が、目の前で奪われてゆく。
 身を挺して自分を護ったせいで、自分の手から離れてゆく――
 残酷な瞬間。
 無残に引き裂かれる心。
 ――私のせいで……!
「ミロッッ!」
 アーナスはミロの唇に手を添え――そして愕然とした。
 呼吸をしていない。
「ミロッ! ミロッ、ミロッッッッ!?」
 ――死が……死が二人を別つまで……。
 涙が滂沱となって、アーナスの瞳から動かぬミロの頬へと落ちてゆく。
 ――共に歩もう……。
「ミロォォォォッッッッ!!」
 戻らない幸せな日々。
 引き返せない現実。
 言い表しようのない喪失感が、アーナスの心を占拠した。



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Category * 鬼哭の大地
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