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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.20[10:18]
「やったぞっ! 第三王子ミロを討ち取ったぞっ!」
 アーナスの神経を逆撫でするように、カシミア兵が驚喜の叫びをあげる。
「王子を殺してやったぞ!」
 その喜悦に満ちた声が、アーナスを現実へと引き戻した。
 沸き上がるカシミア兵の歓呼の叫び。
 再び時が流れ始める。
「……き……さまっ……!」
 ガンッ!
 アーナスは拳を床に叩きつけた。
「貴様かっ!?」
 アーナスは正気の眼差しでカシミア兵たちを睨めつけた。
 先刻斃した兵士の胸から偽のローラを乱暴に引き抜き、荒々しく立ち上がる。
 アーナスの碧い双眸には、喜びに顔を弛緩させている一人のカシミア兵の姿が映し出されていた。
 男の手に武器はない。
「ミロに……槍を放ったのは、貴様かぁっ!」
 空気を震わすような凄まじい咆哮。
 ビクッと、カシミア兵が怖じ気づいたように身体を震わせる。
「貴様がミロに槍を放ったのかっ!」
 叫ぶと同時にアーナスは剣を構え、神業のような速度で兵士に向かって疾駆していた。
 溢れ出す涙が、頬を伝うミロの返り血によって赤く染まる。
「貴様の生命などでは到底及びもしないが――死をもって贖え」
 アーナスは武器を持たないカシミア兵に向けて、情け容赦なく剣を振るった。
 渾身の力を込めて首を撥ね跳ばし、更に首から股間まで縦に切り裂く。
 無惨に切り裂かれた男の全身から、激しく血飛沫が舞った。
 それでもアーナスは、男を滅多斬りにし続けた。
 頭上から血の雨を浴びるアーナスの壮絶な姿は、修羅か夜叉を彷彿とさせる。
 瞬く間に、カシミアの軍中に恐れ戦く動揺の波紋が広がった。
「……あっ……! 何をしてる! 第三王子の首を獲れっ!!」
 忘我状態から己れを取り戻したカシミア兵が、自らを叱咤するように鋭く叫ぶ。
「ミロの首をラパス陛下へ献上しろ!」
 カシミア兵たちが一斉に呼応し、自分の功績を上げようとミロの遺体へ群がる。
「おのれっ、死者を侮辱する気か! このっ、外道共がぁっ!」
 アーナスは抑え切れない憤怒のままに剣を持ち直し、ミロの傍へと駆け戻った。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!」
 鬼神の形相で地を駆ける。
「我が夫に触れるなぁぁっっ!」
 ズサッッ!
 ミロの首を撥ねようとしていたカシミア兵を、容赦なく薙ぎ倒す。
「私のミロに、触るなぁっ!」
 アーナスは群がるカシミア兵を次々と剣で斬りつけ、追い払った。
「誰も……誰にも、ミロは渡さんっ!」
 カッ、と双眸に燃え上がるような閃光が灯る。
 ゆっくりと剣がミロの首筋に当てられた。
 アーナスは心を鬼にし、剣に力を込める。
 ガッッッ!
 鈍い音と共にミロの首が胴から切り離された。
 アーナスは自ら愛するミロの首を獲ったのだ。
 血の滴る生首を、剣を持たない左腕にしっかりと抱き抱える。
「何人も、我が夫に触れることは赦さぬ」
 ビシッ! と、ミロの血に濡れた偽のローラをカシミア兵たちに突きつける。
「……おっ、鬼だ……!」
「悪魔だ! この女は悪魔だっ!!」
 カシミア兵たちが生首を抱えるアーナスに恐れをなし、ジリリと後退る。
 アーナスの全身からは、人間とは思えぬほどの凄絶な鬼気が発せられていた。
 ――そうだ。私は鬼だ!
 アーナスは胸中で叫んだ。
 ――私には、鬼となってもやらねばならぬ事がある!
「貴様らに用はないっ! どけっっ!」
 アーナスはミロの首を強く抱き、カシミア兵を蹴散らすように前に進み出た。
「ラパス……ラパァァァァァァスッッッッ!!」
 アーナスの唇から血のような叫びが迸る。
「そこにいるなら出てこい、ラパスッ!」
 アーナスは他のカシミア兵に目もくれずに歩み続けた。
「ラパァァァァァァスッッッッッ!」
 憎悪と憤懣を孕んだ怒号。
「ギッ、ギルバード・アーナスを止めよっ!」
「陛下に近付けるなっ!」
 烈火のようなアーナスの姿に気圧されていたカシミア兵だが、大事な主君の危機を察して狼狽えながらも武器を構え直した。
 だが――
「やめよ」
 兵士たちがアーナスに躍りかかろうとした瞬間、冷ややかな声が彼らを制した。
 威厳の満ちた声に、アーナスの動きがピタリと止まる。
「皆、剣を引き、下がれ」
 他者の追随を赦さぬ口調に、カシミア兵たちがザワザワと困惑したように騒ぎ出す。
「陛下! 陛下、お待ちを!」
「ギルバード・アーナスは、我らがっ――!」
 焦燥し、声の主を必死に諫めようとする別の声。
「黙れ。口出しも手出しも無用――余が参る」
 それすらも、厳然とした声の持ち主は冷徹に撥ね除けた。
 直後、黒きカシミア兵たちが一様に畏敬の表情を浮かべ、静かに道を開ける。
 開かれたアーナスまでの道程を、一人の青年が悠然と歩いてきた。
 闇のような瞳が、真っ直ぐにアーナスだけを見つめている。
「ギルバード・アーナス。余は此処だ」
 青年の美貌に冷笑が刻まれる。
 暗黒の魔王――ラパス。
 アーナスの碧い瞳には、既に彼しか映されてはいなかった。
「ラパァァァァァァスッッッッ!」
 アーナスはきつくラパスを睨みつけた。
 切望していたラパスとの対面に、心が狂喜乱舞している。
 己が心に同じ闇を棲まわせた、もう一人の自分――魔剣ザハークを手にしたラパスが、確かにそこに存在していた……。


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Category * 鬼哭の大地
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