ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 カチャリ……。
 魔剣ザハークの切っ先が、アーナスへと向けられた。
「久しいな、ギルバード・アーナス」
 ラパスの冷たい美貌に、親しげな笑みが浮かぶ。
「ラパスッ!」
 アーナスは余裕綽々のラパスの態度に、険しく眉根を寄せた。
 鋭い眼光をラパスへ浴びせる。
「その怒り、その憎しみ、そして、その愛情――どれもがこの上もなく凄まじく、美しいな。まるで冷たい炎のようだ」
 今までの経緯をラパスは遠巻きに見物していたのだろう。
 無感情な黒曜石の双眼は、アーナスの腕にあるミロの首へと据えられていた。
「余はおまえのそんなところが愛しい、ギルバード・アーナス。余は紛れもなく、おまえに惹かれている――それゆえに赦し難い」
 ラパスが、一歩、また一歩と緩やかな足取りでアーナスに迫ってくる。
「おまえは生きている限り余を拒み、阻み続ける。だから、おまえだけは、余の手で止めを刺してやろう。この目で確とおまえの死を見届け、おまえが二度とこの世に甦らないことを証明しなければ、余の気がおさまらぬ」
「言いたいことは、それだけか?」
 アーナスは冷厳とした物言いでラパスの弁舌を遮った。
「おや? おまえは久し振りに対面した余に、一言の挨拶もないのか?」
 ラパスが片方の眉を撥ね上げ、心外そうにアーナスを見つめる。
「私が貴様に言いたいことなど、もう――ただの一言もないっ!」
 タンッ! と、アーナスは地を蹴った。
「私が望むのは、貴様の死だけだっ!」
 片手で剣を振り上げる。跳躍のバネを活かして、一気にラパスの懐へ飛び込んだ。
「うおぉぉぉぉっっっっ!」
 ラパスの胸目掛けて、剣を突き出す。
「ザハーク」
 ラパスの手が上がり、鈍色に輝く魔剣がアーナスを迎え撃つ。
 カシャンッッ!
 カンッ、カンッッッ!
 剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
「どうした、ギルバード・アーナス?」
 ラパスが愉悦に満ちた表情でアーナスの剣を押し返す。
「――ぐっ……!」
 防御から攻撃へと切り換えてきたザハークを、片手のアーナスは防ぐのがやっとだった。
 ラパスの攻撃は、電光石火の如く迅速で隙がない。
「おまえの力は、こんなものではなかろう?」
 ザハークがアーナスの頭上に襲いかかる。
「ぐううっっ……!」
 アーナスは、辛うじて片手だけでザハークの攻撃を受け止めた。
「どうした、ギルバード・アーナス」
 ラパスが涼しげな顔でザハークに力を加えてくる。アーナスの身体は一メートルほど後退した。
「ハアァァァァッッッ!」
 アーナスは己れに活を入れるように気合いの籠った叫びを発し、ラパスの力に耐えた。
 ズルズルと後退る身体を、四肢に力を漲らせて食い止める。
「ラパァァァァスッッ!!」
 アーナスは精神を集中させ、ザハークをジリジリと押し上げた。
「……片手では余に勝てぬ。その荷物を放り投げたらどうだ?」
 ラパスの凍てつくような眼差しが、ミロの首を鬱陶しそうに眺める。
「誰がっっ……」
 アーナスは、上目遣いの強い眼差しでラパスの嫌な視線を撥ね除けた。
「誰が放すかぁぁぁっっっ!」
「見上げた熱情だ。だが――下らんっ!」
 ラパスの瞳が忌々しげに細まる。
 ドカッ! とラパスの長い足がアーナスの腹部を蹴った。
「――ぐっ!」
 避ける余裕もなく、まともに蹴りを食らったアーナスは床に投げ出された。
 後ろ向きに二回転してから立ち上がり、素早く態勢を立て直す。
「おまえが王子の首を手放さぬのは、おまえの勝手だ。余は容赦なくおまえを殺す。おまえも余を殺したいのなら、神剣ローラの力を見せてみよ」
 ラパスが両手でザハークを持ち、頭上高く翳す。
「麗しい夫婦愛だとか、故国のため、民のためだとかいう大義名分など――偽善だ。下らぬ戯れ言だ、ギルバード・アーナス!」
 ラパスの全身が禍々しい光を纏い始める。
 頑なにミロの首を護り通そうというアーナスの必死の姿が、ラパスの逆鱗に触れたようだった。
 ラパスの手にあるザハークが、彼の不愉快さを示すように暗く残忍に輝き始めていた。
「そうかもしれぬ……。貴様にとっては、下らぬことかもしれぬ」
 アーナスは臆した様子もなくラパスを見据え、剣を晴眼に構えた。
「だが、私は違う! 私は、貴様などとは――断じて違うっ!」
 アーナスは心に潜むもう一人の自分の存在を否定するように、激しい叫びを放った。
「私は、我が夫を――我が国を――このロレーヌを愛しているっ!」
 アーナスはラパスに向かって疾走を開始した。



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2009.06.20 / Top↑
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