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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.20[11:00]
     *


 イタール王都エカレシュが、カシミア軍によって占拠された翌日――

 陥落したレイ城の城門前には、物凄い人だかりが築き上げられていた。
 カシミア王ラパスの命により、キール・イタール国民への見せしめとして、三つの首級が城門前に曝されたのだった。
 高い門柱からぶらさげられているのは、イタール国王レギオンの首。
 その下の高い台に乗せられているのが、イタールの第三王子ミロ・レイクールンと、その妻――キールの王女ギルバード・アーナス・エルロラの首だった……。
 反逆者の汚名を着せられた王族の首を、人々は悲嘆に暮れ、涙を流しながら見つめていた。
 その中に、憎悪に燃える眼差しで曝された首級を見つめる二人の人物が混ざっていた。
 頭からスッポリと外套を被った二人連れが城門前に辿り着いたのは、つい今し方のことだ。
「アーナス様っ……!」
 背の高い方が、絶望に似た口調で言葉を吐き出した。
 ギリギリと強く噛み締めた唇には血が滲んでいる。
「おお……姫様……」
 祈るように手を組み合わせたのは老人だ。
 アーナスの忠実なる従者――ルーク・ベイとアガシャだった。
 昨夜、二人がレイ城へ戻った時には、既に城はラパスによって陥落されていた。
 間に合わなかったのだ――唯一ラパスを斃すことのできる神の剣ローラは……。
「アーナス様を……アーナス様を見世物にしやがって……!」
 ルークはギュッと両の拳を握りしめた。
 彼にとって、憧れ敬うアーナスとミロの首が無残にも曝されている事実は、耐え難い屈辱だった。
「殺してやる……殺してやる、殺してやる!」
 ルークの瞳がギラッと怨恨に鈍く輝いた。
「ルーク!」
 アガシャが咎めるようにルークの外套を引っ張る。
 だが、血気盛んな少年の耳にアガシャの言葉は届かなかった。
「僕、アーナス様とミロ様の御首を取り返して来ます。アガシャ様、ローラをよろしくお願いしますっ!」
 ルークはアガシャに黄金の鞘に納まった剣を押しつけると、人波を突っ切って走り出してしまったのだ。
「ルークッ!?」
「アーナス様の仇っ!」
 アガシャの視界の中でルークが二本の剣を抜き、カシミア兵が警備する鉄柵の中へと軽々と飛び込んだ。
「曲者だっ!!」
「反逆者を引っ捕らえろっ!」
 突如現れた闖入者にカシミア兵が騒ぎだし、城の中からも無数の応援が駆けつけてくる。
「アーナス様を返せっ!」
 ルークは双剣を振るい、見事な手際で襲い来るカシミア兵たちを退けていた。
 だが、多勢に無勢――
 ルークの猛攻がいつまでも通用するはずもない。
「アーナス様っ!」
 ルークの叫びが周囲に響き渡る。彼は双眸から涙を流していた。
「首だっ! 賊は首を狙ってるぞっ!」
「うるさいっ! どけっ! アーナス様を……ミロ様を返せぇっ!!」
 ルークがアーナスの首に向かって手を伸ばす。
「……アーナス様っ! キールへ――キールへ帰りましょう!」
「おお、ルーク……爺も心は同じじゃ」
 アガシャは瞳に涙を溜めながら、虚空に指で精霊文字を描いた。
「風の精霊シレンよ。ルークを守護したまえ」
 呪文を唱える。
 直後、ビュンッと一陣の風が吹き、ルークの元へと飛び立った。
「アーナス様っ! ミロ様ぁっ!」
 ルークが泣き叫びながらアーナスとミロの首を胸に抱いた。
「死ね、小僧っ!」
 カシミア兵がどっとルークへ群がる。
 それを阻むように目に見えぬ疾風が兵士たちを切り裂き、ルークから引き離した。
「爺にできるのは、最早これぐらい……」
 アガシャは己れの非力さを呪うようにローラを持つ手に力を加え、涙で濡れる眼差しで遠くのルークを見つめていた。
「アーナス様ぁっ! ミロ様ぁぁっっ!!」
 ルークの悲痛な叫びが聞こえる。
 カシミア兵は続々とルークに襲いかかっていた。
 如何に風の精霊と雖も、その全てを防ぐことは不可能だ。
「ルーク……」
 もう駄目か――そう諦めかけた時、
「お力添え致します――」
 アガシャの耳元で女性の声が囁いた。
 恟然と背後を顧みたが、そこに求める女性の姿はなかった。
 代わりに――
「我が名はアリシュア・レイクールン。誇り高き《銀灰の護り》なり!」
 予期せずして、凛然とした女性の声が天から響き渡ったのだ。
 アガシャを含め、ルーク、騒動を見守っていた民衆、カシミア兵――その場に居合わせた全ての者が動きを止め、声のする方向に視線を集中させた。
 高い門柱の上に、長い銀灰色の髪を靡かせた女性が毅然と立ち、下界を見下ろしていた。
「アリシュア様だっ!」
「銀灰の守護姫だぞっ!!」
 民衆からは歓喜の叫びが、カシミア兵からは畏怖の叫びが飛び交った。
「おおっ、アリシュア様!」
 アガシャは縋るようにアリシュアを見上げた。
 アリシュアの黒緑の双眼からは涙が溢れている。
 彼女の繊細な指が、己が額に血の精霊文字を書き込んだ。
「我が右手に、夜の闇。我が左手には、破邪の風――」
 アリシュアの両手が優雅に広げられる。
「古の契約に基づき、我が召喚に応じよ! 宵の姫ナリス! 風の王セフィラ! この地に一時の宵闇を。そして、我が同胞を安住の地へと導きたまえ!」
 呪が紡がれる。
 それから先のことは、アガシャの目にも誰の目にも映らなかった。
 突如として、辺り一面が深淵の闇に包まれたのだ。
 ゴオォォォォォッッッ!!
 暗闇の中、激しい突風が吹き抜けていく轟音だけが響き渡った。
 何が何だがさっぱり理解できぬ状況下で、徐々に闇が退いてゆく。
 人々は一様に呆気にとられた表情で、一時的な夜が明けるのを待った。
 すぐに闇が去り、光の世界が甦ってくる。
「……おお、神よ。神よ――!」
 開かれた世界を目にして、アガシャは心の奥からせり上がった驚喜を祈りとして神に捧げた。
 忌まわしき城門前には、アーナスとミロの首を抱いたルークの姿もアリシュアの姿もなかった。
 忽然と消え失せてしまったのだ。
「ロレーヌの未来に、光あれ!」
 アガシャは涙しながら天を仰いだ。
 その腕の中に、神剣ローラのみが残された。
 

      *

 
 大陸暦一二八六年・夏――
 カシミア王ラパスは、キール・イタール両国を完全にカシミア領土として占有・併合。
 同時に、初代ロレーヌ王爾来の三国全土を支配する偉業の王としてロレーヌの大地に君臨する――

     
               
     「終章」へ続く



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