ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 クラリスの姿を認めて、ラータが微笑を湛える。
 彼の斜め後ろには、白髪の青年が控えている。緋色のマントを纏い、額に黄金のサークレットを填めている――シンシリアと同じ魔法剣士だ。
 一生に二人も魔法剣士を目にすることができるなんて、稀有なことだ。
 クラリスは驚愕と困惑の相俟った眼差しで、ラータと白髪の魔法剣士を眺めていた。
「兄様――」
 セリエが小走りにラータに近寄り、嬉しそうな表情でその首にしがみつく。
 クラリスはハッと視線をセリエへ転じた。名前からある程度察していたが、やはりセリエはとんでもない貴人だったらしい。
「止めないか、セリエ」
 ラータが苦笑混じりに告げ、自分に絡みついている妹の身体を引き剥がす。
 アルディス聖王家の王太子と王女という素晴らしい貴顕を前にして、流石のクラリスも動揺を禁じ得なかった。
「……僕をどうするつもり?」
 クラリスは表面上はいつもの大人しい少年を装い、怖ず怖ずと訊ねた。国王暗殺者がクラリスであると知っている相手に効果があるとは思えないが、つい習慣で地を隠してしまった。
「どうもしないさ」
 クラリスの心境を見透かしたように、ラータがフッと笑う。
「その血塗れの服は始末しておくから、隣で着替えてくるといいよ。後でシンシリアの所までちゃんと送り届ける」
 ラータは限りなく穏やかな口調で告げる。クラリスに向けられた蒼い瞳には、怒りも憎しみも具現されてはいない。父親を殺されたにしては、冷静すぎる態度だった。
「どうして? 僕はラータの父親を殺したんだよっ!?」
 思わずクラリスは声高に叫んでいた。
「……承知してる」
 だが、ラータの涼しげな面差しに変化は見られない。
「ドチール派――いや、ドチール教を知っているか?」
 唐突なラータの質問に、クラリスはブンブンと首を左右に振った。国王暗殺の話が、何故宗教団体と思しき組織へ繋がるのか、全くもって理解できない。
「そうか……。父上を殺害したのは、ドチール派の暗殺者。死因は、高等魔術による心臓麻痺――」
 ラータが澱みなく言葉を連ねる。
 クラリスは更に仰天し、目を丸めた。
 国王レノビアは、間違いなく自分が殺したのだ。
 なのに何故、ラータは異なる理由を口走るのだろう……。
「既に死因は鑑定の上、確認済み。――間違いないよ。ラザァがドチール教の刺客を目撃しているからね」
 ラータが僅かに顔を反らせ、白髪の魔法剣士に視線を走らせる。
 ラザァと呼ばれた青年は寡黙に頷いた。
 クラリスはどうにも納得できなくて、尚もラータに疑いの眼差しを注いだ。自分が犯人から除外されるのは物凄く有り難いが、何か裏があるのでははないか、と勘繰ってしまう。
 クラリスが猜疑の眼差しをじっと注いでいると、ラータは苦々しく微笑んだ。
「頼むよ、クラリス。あまり追及されると、こっちが困るんだ。父上は殺されて当然なんだから……。アルディス聖王家に相応しくない――それが、僕とセリエと魔法剣士の総意だよ。君が殺らなければ、俺が殺っていた。――さあ、セリエ、クラリスを隣に連れて行ってくれ」
 兄に頼まれて、セリエは喜々としてクラリスの腕を引っ張った。
 無論、クラリスに反論の余地を与えないほど強く激しく――である。
 もっとも、あまりにも突飛な出来事ばかりで、クラリスには反論する気概もなかったのだが……。



 クラリスの姿が完全に隣室へと消えてから、ラータは重々しい溜息を零した。
「大丈夫ですか、殿下――いえ、もう陛下ですね」
 魔法剣士ラザァがラータを労るように身を屈め、肩にそっと手を置く。
「まだ殿下でいい。……ようやく父上が死んだ。俺の前から消えた――」
 ラータは虚ろな眼差しでラザァを見上げ、微かに身を震わせた。
 ラザァがゆるりと緋色のマントを広げ、その中へラータを誘う。
「ええ、陛下は崩御されました。一週間後には国葬が行われ、次いであなたの戴冠式が始まります」
「ラザァ……クラリスは大丈夫か?」
「ご心配なく。あの方は、私が責任を持ってシンシリアの元へ連れて行きます」
「ああ……シンシリアか……。彼にも悪いことをした。サーデンライト公爵を匿ってもらったり、茶番につき合ってもらったり――そのせいで、彼は地位を奪われた……」
 ラザァのマントを震える腕で掴みながら、ラータは悄然と言葉を吐いた。
 ラザァが心酔の眼差しでラータを見つめ、彼の殿下を抱き締める。
「あなたのせいではありませんし、シンは個人的にサーデンライト公に心を奪われたみたいですよ。私もシンも――国王陛下よりあなたに忠誠を誓っておりました。我らがもっと早くあのことに勘づいていれば、殿下をあのような酷い目には――」
「ラザァ、その話は……思い出すのも嫌だ。吐き気がする」
 ラータはより強く身を震わせた。
 ラザァが口外しようとしたことは、ラータの裡で最も忌むべき事柄に属しているのである。
「申し訳ありません」
 ラザァがラータを抱き寄せる腕に力を込める。
「……殿下、ご安心を。マイセは父君ではなく、あなたに味方しました。もうすぐ世界はあなたの物です――」
 言い終えると同時に、ラザァはラータの唇を奪っていた。彼は、アダーシャに対する忠誠ではなく、ラータに対する恋慕の念でアルディス聖王家に遣えているのだ。
 ラータは突然の接吻を拒みはしなかったが、いくらもしないうちにスッと唇を離した。
「駄目だよ、ラザァ。俺が即位するまでは辛抱だ。即位したら、全て――ラザァの自由なんだから……」
 ラータは微苦笑でラザァを嗜めた。
 ラータにとって、この白髪の魔法剣士は数少ない心の拠り所だ。同時に、心ごと溺れてしまいそうなくらいに危険な存在でもある。
 行為を中断されて困惑しているラザァの背に両手を回し、ラータはその逞しい胸に顔を埋めた。
『アルディス聖王』という玉座に即いたら、自分はこの優しい温もりさえも手駒として扱わなければならないのかもしれないのだ。
 本当はずっと、こうしていたいのに――



     「8.再会【1】」へ続く



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2009.06.20 / Top↑
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