ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「マスターに暴力ふるうなよっ!」
「隊長はデリカシーに欠け過ぎです」
 ミシェルはカケルの非難をピシャリとはね除けた。
 補佐官養成学院の学院長が言っていた『実直で誠実』というカケル・アマミヤ像は全くの出鱈目だった。
 カケルと行動を共にして三ヶ月――解ったのは、彼が偏屈かつ横柄な口の悪い男だという事実だ。
「まっ、胸がないことくらい気にするなよ」
「気にしてませんっ!」
 カケルを鋭い眼光で睨めつけ、ミシェルは床に散乱した書類を片付け始めた。
「しかし、学院の連中、何で俺の補佐官にミシェルを選んだんだ? おまえ、今年の主席卒業生だろ? お先真っ暗な俺に、将来有望な補佐官をつけてもしょうがないのにな」
「そんなこと知りません。わたしが訊きたいくらいです」
 集めた書類を元の位置に戻し、ミシェルは憮然と応じた。
 基本的に、軍の将校には補佐官が一人つく決まりになっている。少尉の位から補佐官を手元に置くことが許されるのだ。
 補佐官は、その名の通り将校を補佐する役割を担っている。
 それゆえに優秀であることが求められるのだ。
 迅速に仕事を処理するための明晰な頭脳。
 主人を護るための高い戦闘能力。
 そして、主人への揺るぎない忠誠。
 補佐官を目指す者は、地球にある養成学院で通常五年間、必要な物事を叩き込まれる。
 過密かつ過激なカリキュラムをこなし、卒業試験をクリアした者だけが、補佐官として世に送り出される仕組みになっているのだ。
 主席で卒業したミシェルには、それなりの将校が斡旋されるはずだった。
 だが、学院側がミシェルに引き合わせたのは、辺境調査局に左遷されることが決定していたカケルなのだ。
 納得がいかない。
 物凄く理不尽な話だ。
 学院長とのやり取りを思い出し、ミシェルは不愉快さに眉をひそめた。
「でも、今なら解るような気もします。あの学院長、わたしのことが嫌いだったんですよ。たった三年間で主席卒業しちゃう生意気な女だから、嫌われてたんです。だから、わたしをぬか喜びさせて愉しんでたんだわ、きっと」
「偏見もいいところだな。権力を笠に着る、そんな下劣野郎はすぐにくたばっちまうから、あまり気にするなよ」
「あら、珍しいですね。隊長がわたしを慰めてくれるなんて」
「権力を過大評価し、権力を誇大に振りかざす奴らが嫌いなだけだ」
「軍法会議でたっぷり絞られた名残ですね」
「ほっとけ」
 カケルの冷たい眼差しが浴びせられる。
 ミシェルは肩を竦めてから話題を転換させた。
「隊長の左遷は予想外の出来事でしたけど、この仕事は好きですよ。未開の銀河Ⅲ系に赴いて辺境星系を調査するなんて、素敵じゃないですか。軍本部がⅡ系との抗争に躍起になってる最中に、わたしたちは優雅に新銀河の探索。新しい宇宙を誰にも邪魔されずに航海できるなんて、最高の贅沢ですよね。旅行に来たと思って、気楽に仕事させていただきます」
「意外と脳天気だな。まっ、スクルドに乗ってる連中の大半が楽天家だけどな」
 カケルが悪戯っぽく笑う。
 スクルドとは、辺境調査局第七隊専用の宇宙船である。
 船員たちの個室が並ぶ居住エリアの他、人工公園やメディカルセンター、酒場や映画館などの娯楽施設も備えた巨大宇宙船だ。現在、約二千人の人間が船内で生活を営んでいる。
「スクルドの人間は、隊長と船長を筆頭に変わり者ばかりですからね」
 ミシェルが微笑み返すと、カケルは僅かに顔をしかめた。『隊長と船長を筆頭に』という箇所が気に入らなかったのだろう。だが、事実なのだから覆しようがない。
 スクルドには調査隊を総括するカケルとは別に、宇宙船の航路決定や操縦そのものを取り仕切る船長が存在しているのだ。
 ラギ・イドゥンという二十六歳の青年が、その任に就いている。
 カケルと旧知の仲ということだけあって、彼も相当な変わり者だった。
「でも、悪くないですよね、スクルドの乗り心地は。みんな、面白い人ばかりですから。――あっ、もちろん隊長のことも大好きですよ。辺境調査局に左遷されても、どんなに落ちぶれても、隊長はわたしのたった一人のマスターですからね」
 ミシェルは再度カケルに笑顔を向けた。
 カケルが気味悪そうに口元を歪める。彼は制服の胸ポケットから煙草を取り出すと、口に咥えた。続けて、精緻な造りのジッポで火を点ける。カケルの愛用品であるそのジッポは、オニキスと翡翠で構成された『龍神』が埋め込まれている美しい銀製のものだ。
「ミシェル――」
 気怠げに紫煙を吐き出し、カケルが手招きする。
 ミシェルは従順に彼の方へ身を乗り出した。
 カケルが煙をミシェルの顔に吹きつける。
 同時に、ミシェルの胸に柔らかな感触が芽生えた。背筋にゾッと悪寒が走る。
「やっぱり、ないな。まるでまな板のようだ」
 カケルが自分の片手を眺めながら、淡々と言葉を口にする。
 間髪入れず、ミシェルは彼の頭を拳骨で殴っていた。
「ホンット、サイテーッ!」
 カケルの手が胸を撫でたのだと理解した途端、ミシェルは怒りと羞恥に顔を朱に染めた。
 憤怒を込めてカケルを罵倒する。
「セクハラ・マスターなんて、最低最悪です!」
「安心しろ。間違っても、おまえに欲情するなんてことはない。今のは、ただの好奇心だ」
「そんな言い訳も低俗です!」
 猛烈にカケルを非難する。
 直後、室内に通信が入ったことを示す電子音が鳴り響いた。



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2009.06.21 / Top↑
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