ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 惑星アクア。
 その名の示すとおり、美しい水の惑星だ。
 辺境調査局第七隊が今回請け負った仕事は、アクアを有するグロア星系の調査だった。
 二ヶ月間の彷徨の末、ミシェルたちは今ようやくグロア星系の主星アクアに辿り着こうとしているのだ。
 ミシェルの心は、初めて目にする惑星に驚喜していた。
「綺麗……! 綺麗、綺麗、綺麗!」
 モニターを見つめながらはしゃいだ声をあげる。
 碧い煌めきを放つ惑星は、宝玉のようだ。
 これほどまでに美しく碧い惑星を、ミシェルは観たことがなかった。
「隊長、凄いですよ。惑星全体が青いんです! マリンブルーの楽園ですよ!!」
「そんな金切り声をあげなくても、モニターは見えてる」
 カケルが呆れた眼差しをミシェルに投げてくる。
「ちゃんと観て下さい!」
 ミシェルはカケルの口から煙草をもぎ取り、灰皿に押しつけた。
 両手でカケルの頬を挟み、彼の顔を強引にモニターへ向ける。
「確かに綺麗だな。水の楽園か……。大昔の地球も青い惑星だったらしい。流石にアクアほど明澄なブルーじゃないだろうけどな」
「へえ、地球って青かったんですか? わたしの知る地球は、茶色く煤けた砂礫王国ですけどね」
 カケルが披露する知識に、ミシェルは素直に驚いた。
「何世紀か前までは、青かったらしい。今より海も多く、緑も豊かだったと資料で読んだ。おまえ、養成学院で習わなかったのか?」
「習った気もしますけど、『地球が青かった』なんて教えられても信じられませんよ。わたし、生まれは地球ですけれど、育ちは冥王星ですし……。養成学院に入るために移住した時には、疾うに地球は砂色でした。でも――何世紀も前に生まれた人たちは幸せですね。青と緑に包まれた惑星で、生涯を全うすることができたんですから。羨ましいな」
 ミシェルは憧憬を込めた眼差しで、モニターに映る惑星アクアを見つめた。

 かつての地球は、アクアのように美しい惑星だったのだろう。
 しかし、現在の地球は、海と森林が極端に少ない砂の惑星だ。
 過去に生きた人々は、地球の今を予測し、嘆いたに違いない。
 だが、人類は地球を見捨てようとはしなかった。地球を護るために、敢えて宇宙へと旅立つことを決意したのだ。
 新たな居住惑星を求めて必死に銀河を探索し、移住可能な惑星に飛び立った。
 そして人口の減った地球は、壊滅することもなく、今もなお生き長らえている。
 太古の美しい姿は失ってしまったが、それでも地球は生き続け、人類を育み、人類発祥の地として人々の敬意を集めているのだ。

「惑星アクアが発見されたのは、五年も前のことだったよな。なのに、地球の連中はアクアへの移住を考えてない。不思議だよな。ここなら、第二の地球になりそうなのに」
 カケルが独り言のように呟く。
 その声で、ミシェルは我に返った。
 アクアに見入るのを中断し、カケルのデスクに視線を走らせる。彼の超小型コンピュータを無断で手に取り、ミシェルは軽やかにキーボードを指で弾いた。
「移住できないんですよ。アクアは美しい惑星ですが、海洋が九十八パーセントを占め、残りの二パーセントだけが陸地なんです」
 ディスプレイに引き出した惑星アクアの資料をカケルに見せる。
「アクアには大陸が一つしか存在しません。それも、大陸というよりは巨大な島です」
「ああ、人類の住める陸地がないんだったな。アクアは、正しく水の楽園ってわけだ」
 カケルが納得したように頷く。
「それに、アクアには先住民がいます。五年前の調査レポートを読むと、単純にアクア人と呼称しているようですね。姿形は人類とさほど変わりはないみたいです。碧い髪と瞳、肌は透き通るように白いそうです」
「五年前のレポートなら、俺も目を通したぞ」
「あら、隊長が予習してるなんて、不吉な予感がしますね」
 ミシェルが軽口を叩くと、カケルは忌々しげに舌打ちを鳴らした。
 ミシェルは慌てて彼から視線を逸らし、何事もなかったかのように再びキーボードを叩いた。
「アクア人は水棲人種。陸でも生活できますが、殆どは海中都市で暮らしているようです。なんだか、人魚みたいでロマンチックですね」
「乙女の妄想にはつき合ってられんな……。ロマンチックかどうかは、アクア人に遭遇してみないと解らないだろ。彼らの生態系は未だに謎だ。もしかしたら、人肉喰らう化け物かもしれないぞ」
「人肉を好むなら、前の調査隊は全滅しているはずです。それに、人間に外見が似てるなら、きっと親しみやすいですよ」
 ミシェルが反論すると、カケルは疲れたように重苦しい溜息を吐いた。
「おまえはホントに脳天気でいいよな」
「敏腕補佐官に向かって脳天気はないでしょう、隊長」
「敏腕とか優秀とか、自分で言うな」
 カケルが忌々しげに鼻を鳴らす。彼は緩慢な仕種で新しい煙草に火を点けた。
 物憂げな視線がモニターに向けられる。
「海で生まれて海で死ぬ――美しい水棲人、か。アクア人には妙な伝承があるらしいぞ」
 惑星アクアに視線を据えたまま、カケルがぽつりと呟く。
 ミシェルは興味をひかれ、彼に視線を転じた。
 ミシェルの目に浮かぶ好奇心を読み取ったのか、カケルが先を続ける。
「一人のアクア人は一つの海を創る――だとさ」
「は? 何ですか、それ」
 ミシェルは目をしばたたいた。
 アクア人に纏わる言い伝えなのだから、理解できなくて当然なのかもしれない。それにしても突飛な内容だ。
『海を創る』とは、一体何を示唆しているのだろうか?
「知らん。前のレポートにも意味不明だと注釈してあったぞ」
 カケルがぞんざいに応じる。
 彼はこの話題に終止符を打つように、大きく紫煙を吐き出した。
 仕方なく追及するのを諦め、ミシェルはモニターへ視線を戻した。
 途端、微かな揺れが身体を伝う。
「おっと、大気圏に突入したみたいだな」
 船体の揺らぎを楽しんでいるかのように、カケルが声を弾ませる。
 揺れは僅か数秒でおさまった。
 宇宙船スクルドは、アクアの大気圏を無事に突破したのだ。
 ミシェルは食い入るようにモニターを見つめ、心の奥底からせり上がってくる歓喜に顔を綻ばせた。
 もうすぐ到着するのだ、惑星アクアに。
 美しい惑星を己が目で見、その碧い世界を己が足で踏み締めることができるのだ。
 それを想うと、ミシェルの心は否が応でも舞い上がった。
 モニターの中には、碧い世界が広がりつつある。
 広がる大海原。
 煌めく碧海が、ミシェルの心を強烈に惹きつける。
 
 惑星アクアは、目にも鮮やかな碧玉の水の楽園だった。



     「Ⅱ」へ続く



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2009.06.21 / Top↑
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