ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 煌めくプラチナブロンドを発見したのは、娯楽エリアに入る直前の出来事だった。
 娯楽エリアへ続く道とは別方向の通路に、人影を確認した。
 ――あれは、クリスね。
 後ろ姿を一瞥しただけで、ミシェルにはそれが誰であるのか判別できた。
 記憶力に長けた補佐官ならではの即断だ。
 クリスは人気のない通路を迷いのない足取りで進み、どんどん遠ざかってゆく。
「どこに行くのかしら? あっちには外へ繋がるドアしかないのに……」
 ふと、疑心が芽生える。
 首を捻ったところで、ミシェルの頭は明確な答えを弾き出した。
 ――外へ行こうとしてるのね!
 クリスの歩みは澱みない。彼が外界を目指しているのは間違いなかった。
 そう確信するなり、ミシェルは急遽予定を変更した。
 コーヒーを諦め、クリスの後を追う。
 彼がスクルドを降りるのなら、自分も便乗しようと考えたのだ。
 夜のアクアを一目みたい、という欲望がミシェルを突き動かしていた。



 クリス・ユグドラシルの姿は、スクルドから二百メートルほど離れた海岸にあった。
 月明かりを受けて仄白く輝く白浜に一人、腰を下ろしている。
 時折吹く夜風が、癖のないプラチナブロンドを幻想的に靡かせていた。
「こんばんわ、クリス」
 ミシェルは躊躇うことなく歩み寄り、クリスの隣に腰を下ろした。
「……こんばんわ」
 クリスの顔がゆっくりとミシェルの方に向けられる。
 秀麗な顔は常にも増して白かった。青ざめてさえ見える。
 体調が優れない、というラギの言葉は真実だったのだ。
「綺麗よね、この惑星。夜なのに、こんなに明るいし」
 ミシェルは努めて明るく微笑んでみせた。
 蒼白な顔のクリスは見ていて痛々しいが、それを指摘したところで素直に宇宙船へ戻る彼ではない。どんなに具合が悪くても、彼は気の済むまでここに座り続けるだろう。そういう頑なな性格なのだ。
「アクアには衛星が二つあるんですよ」
 完璧な無表情のままクリスが夜空を指差す。
 ミシェルは釣られるように天を仰いだ。
 空には満天の星が輝いている。
 中天にほど近い位置に、半月が二つ浮かんでいた。
「右が惑星アグナル、左がゲイルロドです」
「へえ、月が二つか。どうりで明るいはずよね。月が並んでるなんて、ちょっと神秘的」
「そうですね。眺めているだけでも気分が落ち着きます」
 抑揚の少ないクリスの言葉に、ミシェルは僅かに眉根を寄せた。
 夜空から視線を引き剥がし、彼の顔を覗き込む。
「気分を落ち着かせたかったの?」
 探るような眼差しを向けると、クリスは唇に弧を描かせた。形だけの、何の感情も籠もらない儀礼的な笑みだ。
 初めてクリスに逢った時、精巧なアンドロイドだと思った。
 噂には聞いていたが、実物と対面してみて正直ミシェルは面食らった。
 顔の筋肉が凍りついてしまったんじゃないか、と疑いたくなるほどクリスの表情は変化に乏しいのだ。
 時折、笑顔を見せることもあるが、それは今のように無感情の微笑みだ。
 養成学院で教えられた通りの完璧な微笑。
 挨拶として叩き込まれたから、彼はそれを実行しているにすぎないのだ。
「さっき、船長が捜してたわよ」
「ラギ様が?」
「あなたのことを心配してるのよ。身体の調子も良くないんでしょう? いい加減、戻ってあげたら?」
 多少の非難を込めてミシェルが言うと、クリスはミシェルの視線を避けるように瞼を伏せた。
「ラギ様は、私の心配などしませんよ。あの人は私のことが嫌いなのですから」
「まーた、すぐそうやって悲観的になる! 船長がクリスのことを嫌いなら、補佐官として傍に置くわけないでしょう」
「ラギ様が私を傍に置くのは、物珍しいからです。あの人は、ただ……新しく手に入れた玩具を手放したくないだけなんです」
「何だか屈折した推測ね」
 ミシェルは唇を尖らせた。
 どうやら、自分が考えるよりも遙かにラギとクリスの主従関係はねじ曲がっているらしい。両者の言葉を反芻すると、意志の疎通が全く成っていないことがよく解る。
「ラギ様は、少佐に昇進するまでは補佐官を傍に置いたとこがないんですよ」
「えっ? じゃあ、船長にとってクリスが最初の補佐官ってこと?」
 ミシェルは初めて知る事実に瞠目した。
 補佐官を欲しない将校など滅多にいない。
 補佐官の必要性など理解できない、と突っぱねる方が稀なのだ。
 大抵は己れの激務を僅かでも軽減させるために補佐官を欲するものなのだが……。
 しかし、ラギは珍しい方に属する将校であったらしい。
「ラギ様は補佐官嫌いで有名だったそうです。ですが、少佐に昇進した時、上層部から叱咤され、渋々補佐官を選んだらしいのです」
「で、選ばれたのがクリスってわけね」
「はい。私はその頃、前の主人と別れ、新しいマスターを捜していましたから」
「ふ~ん。船長が補佐官嫌いだったことは解ったわ。でも、それは昔の話でしょう? 今は違うと思うわ。だって船長、真剣にクリスのこと心配してたもの」
「それでも、あの人は私が嫌いなんですよ」
 クリスの瞼が上げられる。
 菫色の双眸は哀しみを表すように昏く翳っていた。




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2009.06.21 / Top↑
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