ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 人影が動いた。
 涼やかな水音を立てて、海中の人物が岸へと近寄ってくる。
 濡れた碧い髪が美しい。その髪の筋が張りつく白い肌も綺麗だった。
 臆する様子もなく浜辺に上がってきた人物を見て、ミシェルは大きく唾を呑み込んだ。
「ア、アクア人……?」
 掠れた声が唇から洩れる。
 全身びしょ濡れの人物は、ミシェルの目前で立ち止まった。
 好奇心に満ちた眼差しがミシェルに注がれる。
 ミシェルはその場にへたり込んだまま、愕然とアクア人を見上げた。
 珍華な碧い髪を除けば、外見は人間と何ら変わらない。
 平らな胸から、そのアクア人が男性らしいことも察せられた。
 年の頃は、ミシェルと同じくらいだろう。まだ成長過程にある少年のように見える。もっともアクア人の寿命など判らないので、見た目より遙かに歳を経ているということも有り得るが……。
 服装は至って簡素だ。上半身は裸、下半身には古代人が纏っていたような腰布しか巻きつけていない。
 宝飾品は銀色の首飾りだけだ。首飾りの先端には、ティアドロップ型のサファイアに似た石が一つぶら下がっている。
 未だ驚倒状態から脱せずにいるミシェルだが、補佐官としての本能が瞬時に少年を観察していた。
「アクア人に逢っちゃった」
 ミシェルは少年を見上げたまま茫然と呟いた。
 こんなにも早くアクア人と遭遇するとは予測もしていなかった。海中都市に住んでいると資料に記してあったから、出逢う確率も低いものだと思い込んでいた。
 不測の事態だ。
 だが、どんなに瞬きを繰り返しても、眼前から少年の姿が消えることはない。
 ――夢でも幻でもなく、現実なのね。
 ミシェルは脱力してしまった指を懸命に折り曲げた。拳を握りたいのだが、指が震えるせいで上手くいかない。
 アクア人を目の当たりにした感嘆と未知の種族に対する恐怖が、胸中で相俟っている。
 複雑な昂揚感が全身を緊縛していた。
「こんな時は、穏便に撤退するのが無難よね」
 ミシェルが呟くと、少年は不思議そうに小首を傾げた。言葉が理解できないのだろう。
「こ、こんばんわ」
 とりあえず、ミシェルは笑ってやり過ごすことに決めた。顔の筋肉をフル活動させて、満面の笑みを浮かべる。
 すると、少年も笑顔を作った。こちらが敵意を持っていないということは、何とか相手にも伝わったらしい。
「リュミナ……シレ・リュミナ――」
 目尻に笑みを刻んだまま、少年は早口でそう告げた。
 だが、当然の如くミシェルにはアクア語など理解できない。
「ご、ごめんなさい。わたし、アクアの言葉、解らないのよ」
 ミシェルが慌てて首を横に振ると、少年の顔から笑みが消失した。
 困ったような眼差しがミシェルに注がれる。
 しばしの沈黙の後、少年は砂浜に屈み込んだ。
 宝石のような碧い瞳が、真っ向からミシェルを捕らえる。
 海の匂いを強烈に感じた瞬間、少年の手がミシェルの頬に触れた。



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2009.06.21 / Top↑
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