ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「ミシェルッ!」
 遠くからカケルの叫びが聞こえてくる。
 だが、どうしようもない。
 突然の出来事だったので、対処のしようがなかった。
 仰向けの状態で、背中から海面に叩きつけられる。
 背に激痛が走り、肺が圧迫される。
 海中に没した瞬間、ミシェルは大量の酸素を吐き出していた。
 煌めく碧海の中を、数多もの気泡が立ち上ってゆく。
 背中の痛みを堪え、ミシェルは必死に息を止めた。
 しかし、肺に残された酸素の量は極端に少ないらしい。
 すぐに呼吸が苦しくなった。
 両手で懸命に水を掻くが、意に反して身体は水没してゆく。
 濡れた衣服が重みを増し、鬱陶しいほどに身体に纏わりついてくる。
 ――どうすればいい?
 空気を吸うために上昇すれば、ディス人の餌食になる。敵は、ミシェルが海面から首を出すのをじっと待ち構えているだろう。
 かといって、このまま海に身を委ねていれば窒息死するだけだ。
 岸まで息継ぎなしに泳ぎ切る自信はない。酸素の残存量が少なすぎる。
 ――八方塞がりだわ……!
 心の中で悲鳴をあげた時、白い影が眼前をよぎった。
 何かが海中を華麗に泳いでいる。
 ――人魚?
 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎった。
 だが、それは伝説上の生物だ。実在するわけがない。
 白い影がスッと近寄ってくる。
 その胸元に青く光る石を発見し、ミシェルは驚きに目を丸めた。
 ――ミスミだ!
 この美しい惑星の住人。
 海の中を自由自在に回遊する水棲人。
 昨夜出逢ったアクアの少年が、目の前に確かに存在していた。
 ミスミのしなやかな腕が、ミシェルの身体を抱き寄せる。
 彼の唇がミシェルの唇に重ねられた。
 そこから大量の空気が流れ込んでくる。
 ミスミが吐き出す息は、二酸化炭素ではなく酸素だった。
 そのことを不思議に思う余裕もなく、ミシェルは与えられた酸素を必死に貪った。
 酸素が肺に行き渡り、息苦しさが消失する。
 ミスミが顔を離すと、ミシェルは分け与えてもらった空気を逃がさぬよう、しっかりと口を引き結んだ。
 ミシェルを安心させるように、ミスミが微笑む。
 彼はミシェルの腰を片手で抱くと、残る一方の手で前方を指差した。その方角に岸があるのだろう。
 ミシェルが頷くと、彼はミシェルを抱えたまま泳ぎだした。
 普通の人間よりも遙かに速いスピードで海中を進む。
 ミシェルというお荷物があるにもかかわらず、ミスミの泳ぎは少しも華麗さを損ねてはいなかった。
 程なくして、碧い世界が終わりを告げる。
 僅か数十秒間の海の旅だった。




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2009.06.21 / Top↑
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