ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 驚愕に、ディス人たちが動きを止める。
 ミシェルもカケルもラギも息を呑み、その光景を見つめていた。
 ミシェルに迫りつつあったディス人の胸から、銀色に輝く物体が飛び出している。
 それが引っ込んだ途端、再び黄金色の光が走った。
 ディス人の身体が縦に切り裂かれる。
 二つに割れたディス人は力無く砂に頽れ、主を失ったエアバイクは天へ向かって上昇した。
「怪我はありませんか?」
 ミシェルのすぐ間近で、眩いプラチナブロンドが揺れる。
 真っ二つに裂けたディス人の傍らに、クリス・ユグドラシルが立っていた。
 彼の左手には《スコーピオン》と呼ばれる特殊な剣が装着されている。長い刃を直接手の甲にはめて使用するものだ。刀身全体からレーザーが放射される優れ物でもあった。
「クリス!」
 ラギの声に、クリスは優雅に身を翻した。
「遅くなって申し訳ありません」
 簡素に告げた直後、クリスの姿はその場から消えていた。
 跳躍したのだ、とミシェルが察した時には、クリスは敵のエアバイクに飛び乗り、その首筋を斬りつけていた。
 秀麗な顔は、あくまでも無表情。
 噂通り、彼は眉一つ動かさず、淡々とスコーピオンを操っていた。
「す、凄い……」
 ミシェルは茫然とクリスの姿を眺めていた。
 あの華奢な身体のどこに類い稀な戦闘能力と冷酷さが宿っているのか――不思議でならない。
 返り血を浴びる前に、クリスは身軽にエアバイクから飛び降りた。
 仲間を殺され、憤怒している残り三人のディス人が、クリスに向けてエアバイクを発進させる。
 クリスの怜悧な眼差しが、三台のエアバイクを射る。
 迅速にスコーピオンが薙ぎられた。
 刃の尖端から放出されたレーザーが長く伸び、鞭のようにしなる。
 一片の逡巡もなく、クリスはレーザーの鞭をバイクに叩きつけた。
 瞬く間に三台のバイクが粉砕される。
 慌ててバイクを捨てたディス人たち目がけ、クリスは疾走した。
 スコーピオンの刀身が陽の光を受けて銀色に煌めく。
 刀身が鋭利な軌跡を描いた。
 一人目の胴を水平に薙ぎ、二人目は胴から肩へと刃先を跳ね上げるようにして斬り、最後の一人は恐ろしいほどの正確さで眉間にある第三の目を貫いた。
 あっという間の出来事だった。
 クリスの戦い方は、見事なまでに鮮やかで冷徹だった。
 彼は刀身を濡らすディス人の体液を振り払うと、左手首を右の人差し指で軽く押した。直後、スコーピオンが収縮される。変形した武器は、クリスの手首にブレスレットのような形で納まった。
「終わりました」
 こちらを振り返り、クリスが淡然と報告する。
 目覚ましいスピードで動いていたというのに、彼の呼吸は全く乱れず、顔も無表情のままだった。
 ――伝説の補佐官は、やっぱり半端じゃないわね。
 半ば驚嘆し、半ば畏怖しながら、ミシェルはクリスの麗姿を見つめた。
「クリス!」
 ラギがクリスに駆け寄る。その表情は気難しげにしかめられていた。
「お怪我はありませんか、ラギ様」
「オレのことより自分の身を心配しろ! 熱はどうしたんだ?」
「平気です。ドクター・イブリスに点滴を射ってもらいました」
 咎めるようなラギの言葉に、クリスが平然と応じる。
 ――十中八九、嘘ね。
 二人のやり取りを聞いて、ミシェルは思わず苦笑を零してしまった。
 クリスは、スクルド内に鳴り響いた非常警報を耳にして、慌てて外界に飛び出してきたのだろう。ピアスの発信機を頼りにラギの姿を捜し、窮地に駆けつけてくれたのだ。
「ミツメ……キエタ」
 ふと、ミスミが呟く。
「もう大丈夫よ、ミスミ」
 ミシェルは彼に向けて微笑んだ。
 後ろから肩を掴まれたのは、その直後のことだった。
「ミスミっていうのか、このアクア人は?」
 訝しさを孕んだカケルの声。彼は、しげしげとミスミを見つめていた。
「言葉も通じるみたいだな。――ミシェル、俺に解るように説明してくれるよな? いつ知り合いになったんだ?」
 カケルの唇が不敵に弧を描く。ミシェルを睥睨する双眸は、静かな怒りを湛えていた。
 言い逃れできる状況ではないらしい。
 ミシェルは観念した。
「出逢ったのは昨夜です。もちろん、偶然です。ミスミが言葉を理解できるのは、五年前の調査隊に教えてもらったからだそうです。彼がディス人に狙われている理由は、残念ながらわたしにも解りません」
「昨夜は外出禁止だったはずだけどな」
「それについてのお叱りは、後で受けます。今は、スクルドに帰還することが第一です」
 ミシェルが真摯にカケルを見返すと、彼は溜息を洩らした。その口が叱咤の言葉を吐き出すより早く、
「少佐、スクルドへお戻り下さい」
 クリスが助け船を出してくれた。
「隊員たちは非常警報に戸惑い、船内は騒然としています。皆、少佐とラギ様の指示を待っています」
「――だ、そうで。何にせよ、オレたちはスクルドに戻って、事態を収拾しなきゃならないよ。ディス人の出現で、今後の予定を立て直さなきゃならなくなったしね」
 ラギが大仰に肩を竦めてみせる。
 カケルはもう一度溜息をつき、静かに頷いた。
「解った。で、このアクア人はどうする?」
 カケルの視線がミスミに注がれる。
 その視線を受けて、ミスミは首を傾げた。
「フネノヒト、スキ。ミツメ、キライ」
 カケルの言葉が通じなかったのか、ミスミは曇った表情でそう告げた。
「ミツメ、キライ。ナカマ、コロス」
 ミスミは更に言葉を連ねる。表情がいっそう昏く翳った。
「ウミノヒト、イナイ――」
 唐突に、ミスミの顔が強張る。
 ミシェルが異変に気づいた瞬間、彼の身体はグラッと大きく傾いた。
「オイ、大丈夫か?」
 カケルが慌ててミスミの身体を抱き留める。
 ミスミからの返事はない。
「ミスミ、しっかりして!」
 ミスミの顔を覗き込み、ミシェルは狼狽した。彼の顔は蒼白だった。身体のどこかに不具合を来しているのは明白だ。
「陸に上がったのがマズかったのか?」
 腕の中のミスミを見つめ、カケルが渋面を作る。
 ミシェルは即座に首を振った。
「それは関係ないと思います。アクア人は陸でも生活できますから……。もしかしたら、わたしを助けるために無理をしたのかも――」
「呼吸が不規則だね。病人を放置してはおけないよ。一緒にスクルドへ連れて行こう」
 ラギが提案する。
「緊急事態だから仕方ない。どれだけ治療に効果があるか解らないが、ドクター・イブリスに診てもらおう」
 カケルが決断を下し、ミスミを両手に抱え直す。
「では、お二人とも早急にスクルドにお帰り下さい」
 抑揚のない声音でクリスが告げる。彼の視線がちらとミシェルに流された。
 その視線の意味を察して、ミシェルは素早く頷いた。
 ミシェルとクリスにはまだ仕事が残っている。
「クリスたちは戻らないのか?」
 ラギの不審の眼差しがクリスとミシェルに注がれる。
 二人は同時に首肯した。
「私たちは残ります。ディス人の仲間が、まだいるかもしれません。我々の存在を知られるのは不都合です」
「ディス人の死体を処分したら、すぐに帰還しますから心配しないで下さい、隊長」
「解った。――じゃあ行くか、ラギ」
「そうだね」
 ラギが敏捷に背を返し、砂上に放置されているエアバイクへ駆け寄る。
 しばし物色した後、彼は一台のバイクに飛び乗った。
 すぐにエンジン音が響き、バイクが接近してくる。
 カケルはミスミを肩に担ぐと、ラギの後ろに飛び乗った。
「二人とも気をつけろよ」
 カケルの言葉を最後に、エアバイクは砂塵を噴き上げて疾走を開始した。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.06.21 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。