ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 惑星アクアを緊急離脱してから約三時間――懸念していたディス人の追跡もなく、宇宙船スクルドは安定した航海を続けていた。
 船内の緊迫感も薄れ、船員たちにも笑顔と陽気さが戻りつつある。
 平常さを取り戻した船内を、ミシェルはひとり憂鬱な顔で歩いていた。
 口からは無意識に溜息が零れてしまう。
 居住エリアのある一室の前で足を止め、扉を見つめる。
 再び溜息が洩れそうになるのを堪えて、ミシェルは躊躇を吹っ切るようにかぶりを振った。
 ――元気だけが取り柄なのに、へこんでどうするのよ!
 胸中で己れを叱咤激励し、深呼吸する。
 心が落ち着いたところで、ドア横のインターフォンに向かって笑顔を繕った。
「船長、ミシェルです」
『――開いてるよ』
 インターフォンからラギの声が流れてくる。
 それを契機にミシェルは足を踏み出した。
 開いたドアを潜り、室内に身を移す。
 飾り気のない室内を見回す。
 ラギはベッド脇のイスに腰かけていた。
 ベッドの中では、この部屋の主――クリスが死んだように眠っている。
 ラギの視線は、クリスの寝顔に注がれていた。
「船長、お疲れじゃありませんか? わたし、付き添い交代します」
 ラギの顔に疲労の影を見出し、ミシェルは思い切って言葉を口にした。出航後、ラギはずっとクリスに付きっ切りだったのだ。
「オレは平気だよ。でも、まさか、こんな形でクリスの寝顔を見ることになるなんてね」
 ラギの横顔に自嘲の笑みが刻まれる。
「すみません。わたしが傍にいたのに……」
 非常に申し訳ない気分に陥って、ミシェルは俯いた。
「ミシェルのせいじゃないよ。それに、思ったより怪我も酷くない」
「申し訳あり――」
「ミシェルは、どうして補佐官になったの?」
 謝罪しようとしたミシェルに、ラギが唐突な質問を投げかけてくる。
「はい? わたし……ですか?」
 ミシェルは突然の質問にしばし唖然とし、瞬きを繰り返した。
「基本的に、補佐官になれる人間は士官にもなれると思うんだよね。でも、君やクリスは補佐官の道を選んだ。オレには、どうしようもなく不思議でならない」
「はあ……。わたしは、お金のためですけれど。嫌な言い方ですけど、女の身では中将や大将にはなれないと判断したんです。だから、補佐官になることを決意しました。エリート将校にはなれないけれど、エリート将校の補佐官にならなれますしね」
「それじゃ、カケルがマスターになったのは災難だったね」
「はい。でも、隊長のことは好きですけれど」
 ミシェルが逡巡なく答えると、ラギは愉快そうに笑った。
「それで、お金を貯めてどうするの?」
「よくある、つまらない話ですよ。冥王星にいるわたしの家族――大家族なんです。わたしの下に弟や妹が八人もいるんですよ。今度また双子が生まれるらしいですし……。極貧生活が嫌だから稼ぐだけです。あっ、あとは結婚資金ですね。これは重要です」
 ミシェルは笑顔で告げ、ヒョイと肩を竦めてみせた。
「可愛いね、ミシェルは。うちのとは大違いだ」
 微笑んだまま、ラギがクリスに視線を戻す。
「クリスは、どうして補佐官になったんですか?」
「さあ? クリスは自分のことは一切語らないからね。ただ、経歴には戦災孤児とあったから、その辺に理由があるんじゃないのかな」
 クリスの髪を撫で、ラギはふと表情を曇らせる。
 双眸に昏い影が射した。



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2009.06.22 / Top↑
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