ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 猛烈な怒りが、あっという間に全身に浸透する。
 イブリスとレイラが何か言うよりも早く、ミシェルは手にしていたスプーンをラギの鼻先に突きつけていた。
「意気地なし!」
「ミ、ミシェル?」
「誰かがクリスに言い寄っても、クリスが誰かを好きになっても、ホントは嫌なくせに!」
 最大限の怒りを込めて、ラギを真っ正面から睨めつける。
「船長の意気地なし! 臆病者。愚図、のろま、間抜け!」
「ミシェル、それは、あまりにも酷い言い種なんじゃ――」
「酷くなんてありません。船長は根性なしで、腑抜けで、分からず屋で、優柔不断の情けない男です。わたし、とっくに自覚して、クリスとどうにかなってると思って安心してたのに……。なのに、進歩するどころか避けてどうするんですっ!!」
 ミシェルは勢いよく罵声を飛ばした。
 憤りに任せてスプーンをテーブルに突き立てる。
「オイオイ、雁首揃えて何を喚いてるんだ? 穏やかじゃないな」
 不意に、頭上からカケルの声が降ってきた。彼はミシェルの手からスプーンを奪うと、至極当然のようにラギの隣に腰を下ろした。
「一体、何をやってるんだ? 見たところ、ラギが虐められてるみたいだけど」
「あらら、隊長のお出まし? 今、折角、ミシェル補佐官がブラボーなこと言ったのに」
 イブリスが残念そうに肩を竦める。
 ラギは友人の出現に安堵したのか、小さく息を吐き出した。
 そんなラギをミシェルが鋭く睨むと、彼は慌ててコーヒーカップに手を伸ばした。
「隊長も何か言って下さいよ。最近の船長はサイテーです、って!」
「私からもお願いします、アマミヤ少佐。船長の不自然な態度を見ていると、クリス補佐官が不憫でなりません」
 ラギが親友に助け船を求める前に、ミシェルとレイラは鬼気漲る表情でカケルに訴えていた。
「ああ、クリス絡みのことか……」
 カケルは思案するように眉根を寄せた後、横目でラギを見遣った。
「諦めろ、ラギ。おまえが悪い」
 カケルがラギの肩をポンと叩く。その顔には意地悪な笑みが浮かんでいた。
「カケルまでオレの敵か」
「あーら、船長がいつまでもぐずぐず悩んでるからいけないのよ。そうねえ……煮え切らない船長が現状打破する術は、一か八かの勝負ね。力ずくで手籠めにすればいいのよ」
 紫煙を吐き出しながら、イブリスが事も無げに大胆発言する。
「――うっ!」
 あまりの衝撃にコーヒーを咽喉に詰まらせたのだろう。
 ラギは目を剥き、それから派手に咳き込んだ。
「じょ、冗談はやめてくれ、ドクター」
「あたしは大真面目よ。一度強引にヤッちゃいなさいよ」
「そんなつもりは毛頭ないよ。大体、女好きのオレが何故……? それに、そんなことすればクリスに殺されるに決まってる」
 ラギが顔を青ざめさせ、震える声で呟く。
「同性同士なんて、深く悩むことじゃないだろ。ミシェルなんか異星人と愛を育もうとしてるんだから、そっちの方が凄いだろ」
 事の成り行きを面白がっている様子で、カケルがニヤニヤと笑う。
「隊長、今はわたしのことはいいんです!」
 ミシェルはカケルを軽く窘めてから、ラギに視線を戻した。
「とにかく、クリスのことが好きなら、どんな手を使ってでも彼を引き止めて下さいね」
「――引き止める?」
 ラギが怪訝そうに首を捻る。
「地球に着いたら、クリスは補佐官を辞めるそうです」
「クリスが……そう言ったのか?」
「はい。はっきり、きっぱり、わたしに宣言しました。だから、今日中に何とか頑張って下さい。というか、何とかしてくれなければ恨みます。クリスの堅い決心を覆すことができるのは、船長しかいないんですからね!」
「クリスが補佐官を辞める……。そんなバカな……」
 ミシェルの言葉に、ラギは甚大なショックを受けたようだった。
 唇を噛み締めて押し黙り、怖い顔で宙を睨む。
 そうかと思うと、彼は急に席を立った。
「悪い。オレ、ちょっと抜けるよ」
 ラギは真摯な顔でそう告げると、脇目も振らずにカフェを飛び出していった。
 どうやら、ようやく覚悟を決めてくれたらしい。
「あらら、判りやすい人よね。あたし、煽りすぎちゃったかしら?」
 満足そうにラギの背中を見送り、イブリスがケラケラと笑い声を立てる。
「あれくらいけしかけても、バチは当たりません。――さて、どうします、皆さん? 今回は、調査局本部最上階レストランの高級ギャラクシーランチ一週間分とということで」
 ラギの姿が完全に消え去ったところで、レイラが皆に意味深な視線を配る。
「あっ、わたし、クリスには幸せになってほしいから――成就する方に賭けます」
 ミシェルが意気揚々と告げると、斜め向かいでカケルも大きく頷いた。
「ああ見えても、ラギは一度腹をくくると何事もやり遂げる男だからな。俺もクリスが落ちる方に賭ける」
「あたしも二人がヤる方に賭けるわ」
「私も船長がクリス補佐官と一線を超え――」
 言いかけて、レイラは苦笑を湛えた。
「これでは、賭は成立しませんね」


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2009.06.22 / Top↑
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