ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「随分と色々な言葉を覚えたわね」
「クリスがたくさん教えてくれた」
 ミスミが屈託なく微笑み、ミシェルの手を握る。
 その手をミシェルは遠慮がちに握り返した。
「ねえ、ミスミたちの言葉でアクアは何ていうの?」
「リュミナ・キシェ」
「リュミナ……キシェ?」
「そう。地球の言葉に直すと《リュミナの海》。リュミナはボクたちの神様。海を産み、ボクたちを創った女神のことだよ」
「アクアは女神の星なのね」
「海の人はみんな、リュミナの子供。ボクは、その中でも特別な子供」
 ミスミは空いている方の手を首筋に伸ばし、首飾りを取り出した。
 ミシェルの眼前で、涙の形をした碧い宝石が眩く煌めく。
「コレ、リュミナの涙。星を海に換える大切なモノ。リュミナに選ばれた者が代々受け継ぎ、護ってきた」
「じゃあ、これを持ってるミスミは、リュミナの神官みたいなものなのね」
 ミシェルは素直に感嘆し、碧い宝石をまじまじと見つめた。
 アクア人がディス人の侵略からミスミを護ってきたのは、彼が女神に愛された神童だからなのだろう。
 そうして彼は、最後のアクア人としてあの惑星に一人残されたのだ。
「シンカン……? うん、神官みたいなものだね」
 しばし考えるように首を傾げた後、ミスミは哀しげな笑みを湛えた。
「でも、ボクの後を継ぐ人はもういないから、リュミナの涙を護る意味もないんだけどね」
「そんなことないわ。きっと何か、アクア人の子孫を残す手だてはあるはずよ」
 何の慰めにもならないかもしれないが、ミシェルは咄嗟にそう口走っていた。
 残されたアクア人はミスミだけだ。通常の生殖は到底不可能。
 ミスミの遺伝子からクローンを創るという方法もあるが、研究機関にミスミを引き渡すことには強い抵抗がある。彼を人体実験の餌食にすることだけは、絶対に避けたい。それをしてしまえば、非道な行いをしたディス人たちと何ら変わらないような気がする。
「ボクたちは地球人よりずっと寿命が長い。それはね、繁殖期が短いからなんだ。アクア人は元々数が少ない上に、十年に一度しか繁殖期を迎えないんだ」
 ミシェルの髪を手で撫でながら、ミスミはゆっくりと言葉を紡いだ。
「十年に一度?」
「うん。二つの月が重なる夜にだけ、ボクたちは生殖活動を行うんだ。月が重なる周期は、地球の尺度で考えると十年だってクリスが教えてくれた」
 二つの月――惑星アクアの衛星であるアグナルとゲイルロドのことを指すのだろう。
「十年に一度、たった一夜だけが子孫を残すチャンスなんだ。もうすぐ、その刻が訪れるのにボクは一人になっちゃった」
「一人じゃないわ。わたしが傍にいる」
 ミシェルは震える声で告げ、唇を噛み締めた。
 アクア人ではない自分が告げても、何の説得力もない言葉が虚しい。
 慰めの言葉すら満足にかけてあげることのできない自分が、ひどくもどかしく、口惜しかった。
「ありがとう」
 ミスミの顔に綺麗な笑みが刻まれる。
 彼はミシェルの手を取り上げると、その甲にそっと唇を押し当てた。
 出逢った時と同じ、優しさと愛情に満ちた口づけだった。
 急激に鼓動が高鳴る。ミシェルは上気した顔を上げ、改めてミスミを見つめた。
「ミスミは一人じゃないわ。それに子孫をつくる確率はゼロじゃないと思うの。だって、隊長が言ってたもの。その……あのね、わたしとミスミ――結ばれることは可能だって」
 喋っているうちに、ミシェルの頬はますます熱くなった。
 ミスミの澄んだ瞳がじっとミシェルを捕らえている。
 その視線が肌に刺さるようで、ミシェルは思わず顔を俯かせた。
「ねえ、わたしの言ってること、解る? わたし、今ね、宇宙の遙か彼方で二つの月が重なってればいいな――って思ってるのよ」
 羞恥を振り切って、ミシェルは一気に言葉を連ねた。
 一瞬の静寂――ミシェルにはとてつもなく長く感じられた沈黙の後に、ミスミが動いた。
 白い手がミシェルの頬に触れ、優しく顎を持ち上げる。
 唇にミスミの唇が押し当てられた。
「地球の人、好きな相手に想いを伝える時はこうする、ってカケルが教えてくれた」
 ぎこちないキスの後、ミスミがはにかんだ笑みを浮かべる。
「た、隊長が……?」
 不意打ちのような口づけに驚喜しながら、ミシェルはミスミを見返した。
 それからミスミの言葉の内容に衝撃を受け、目を丸める。
 ――あのエロ隊長、何もしてないって言いながら、しっかり手ほどきしてるじゃない!
 カケルに対する怒りが込み上げてきたが、それは二度目の口づけによって呆気なく霧散した。
 ――でも、今は隊長に感謝したいくらい幸せかも。
 ミスミの抱擁に陶然としながら、ミシェルは彼の首に両手を回した。
「好きよ、ミスミ」
「ボクも、ミシェル好き。初めてミシェルを見た時、リュミナだと思った」
 ミスミが照れ臭そうに言葉を口にする。
「月の光を受けたミシェルは、とても綺麗でびっくりした。リュミナの姿、ボクたちと少し違う。海の瞳と太陽の髪を持つ女神。ミシェルの髪、太陽のように輝いてる。だから、ミシェルはリュミナの化身だと思った」
「わ、わたし……女神になれるほど美人でも高貴でもないわよ」
「でも、ミシェルはボクのリュミナ。ボクが見つけた、たった一人のリュミナ」
 ミスミの双眸が純粋な喜びに輝く。
「ボクはリュミナと出逢ったんだ。だからきっと、リュミナ・キシェの月、重なってる。ボクには解る。二つの月は重なってるよ、ミシェル――」
 熱っぽく囁き、ミスミが再び唇を重ねてくる。
 ミシェルは瞼を閉ざし、ミスミを抱き締める手に力を込めた。
 その瞬間、閉じた瞼の裏で、真円を描く二つの月が綺麗に重なり合った――


     「Ⅵ」へ続く



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2009.06.22 / Top↑
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