ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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『遅い! 遅いぞ、ミシェル』
 回線を開いた瞬間、モニターの中にカケルのしかめっ面が出現した。
 こんな朝っぱらからカケルが起床し、しかも制服を身に纏っているなんて、驚きだ。
 画面いっぱいに映し出された主人の不機嫌な顔を見て、ミシェルは苦々しく微笑んだ。
「ツーコールで出ましたよ、わたし」
『さっきまで誰かと通話してただろ? 何度かけ直しても通話中で、俺は随分と待たされたんだけどな』
「急ぎの用事なら、割り込めば良かったじゃないですか?」
『何故か知らんが、割り込み不可だったぞ』
 カケルが不服げにフンと鼻を鳴らす。
 言われて、ミシェルは首を傾げた。
 普通なら、誰かと通信中でも他に三人までは割り込みが可能だ。合計四人と同時通話ができるはずなのだ。なのに、それが不可能だったとは、どういうことなのだろうか?
「おかしいですね。わたし、クリスとしか喋ってませんよ」
『誰と喋ってもいいけど、俺を待たすな』
「そんなに急いでるなら、専用通信機を使用して下さいよ」
 呆れ顔でカケルを見返し、ミシェルは左腕をモニターに向かって差し出した。
 手首に填めたブレスレットを、これ見よがしに指差してみせる。
 自分とカケルには二人だけの専用通信機があるのだ。
 理不尽な怒りをぶつけられる所以はない。
『……そんな存在、とっくの昔に忘れてた』
 カケルが渋面を作り、憮然と呟く。
「それじゃあ、今、この瞬間からは絶対に忘れないで下さいね。では、改めて――おはようございます、隊長」
 ミシェルは左手を引っ込めると、勝ち誇った笑顔を浮かべ、敬礼した。
 カケルがモニターの中から忌々しげな視線を寄越し、舌打ちする。ミシェルの嫌味よりも、己れの失態に口惜しさを感じているようだった。不機嫌な表情が、ますますしかめられる。
 だが、彼の不愉快そうな表情は、そう長くは続かなかった。
「おはよう、カケル!」
 ミシェルの隣でミスミが笑顔を向けた途端、カケルの顔が弛緩したのだ。
 他の船員たち同様、カケルもミスミに甘い。穏和で、誰に対しても愛想のいいミスミの人徳だろう。
『そうか、ミスミも一緒だったな。ミシェルに虐められてないか?』
「隊長!」
 ニヤリと唇を吊り上げるカケル見て、ミシェルはわざとらしく咳払いをしてやった。
「こんな早朝から制服着てるなんて、珍しいですね」
『相変わらず、嫌味な補佐官だな。最近の俺は勤勉なんだ。この休暇中だって、五回も本部に顔を出してるんだぞ』
「それって、単なる呼び出しじゃないですか? この前の調査、結局何もせずに帰ってきたから、局長カンカンに怒ってるんでしょう」
 素早くミシェルが指摘すると、カケルは眉間に皺を寄せた。図星だったらしい。
『そうだ。呼び出されて出頭してたんだ。悪いか?』
「いえ、悪くはありませんけれど……。それなら、わたしにも声をかけて下さいよ。わたしは隊長の補佐官なんですから。二人で知恵を絞れば、局長の激怒を鎮められたかもしれないじゃないですか」
『おまえは一日中ミスミといちゃついてればいいんだよ』
 カケルがぶっきらぼうに告げる。
 自然とミシェルの頬は緩んだ。
 要するに、カケルは自分とミスミに気を遣い、敢えて一人で局長の元へ出向いてくれたのだ。
 今なら、クリスが彼のことを『補佐官想いの優しいマスター』と評したことに納得がゆく。
 口調と態度は不遜で横柄だが、カケルは根が優しい人間なのだ。
『五回に及ぶ交渉の結果、ディス人のディスクと引き換えに、ミスミの身柄はこっちで保護することに決定した』
「ありがとうございます」
『喜ぶのはまだ早い。とにかく局長はえらくご立腹だ。それでだな、本題だが――出航だ』
「は?」
 唐突な宣告を理解できずに、ミシェルは唖然と瞬きを繰り返した。



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2009.06.23 / Top↑
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