ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
『だから出航だ、出航! 三日後にもう一度銀河Ⅲ系に出発する。今度はグロアじゃなくてラタトスク星系の調査だ』
 カケルが苛立たしげに吐き捨てる。
 ラタトスクとは、グロアよりも更に遠い位置にある星系だ。
 出航すれば、最低でも半年は地球に戻って来られないだろう。
「わたしたち、帰還したばかりですよ。それに、三日後に出発なんて急すぎます」
『俺に文句を垂れるな。局長直々の指令だ。行くしかないだろ』
「……了解」
 不承不承にミシェルは頷いた。
 折角地球に戻ってきたと思ったら、また銀河Ⅲ系にとんぼ返りとは、ついてない……。
『出航準備のために、今日からスクルド勤務だからな』
「さっき、クリスにも別件でスクルドに来てほしいと言われたので、構いませんけれど」
『ああ、俺のところにもラギから連絡があったな。スクルドのメインコンピュータから警告が発信されているとか何とか……』
 カケルの顔がしかめられる。彼にも警報の意味が理解できないのだろう。
『まっ、そっちも出航までには何とかなるだろ。隊員には伝令を出しておいた。今頃、みんなスクルドに向かってるはずだ』
「隊長が自ら伝令を発するなんて、天変地異の前触れですね」
『余計なことを口走るな。俺は今からスクルドに向かう。おまえも早く支度しろよ』
「了解」
 ミシェルはモニターに向かって敬礼した。
 直後、カケルの輪郭が大きく揺らいだ。
 ザザッという不快な音が鳴り響き、画面に横線が幾筋も走る。
「あっ、まただわ!」
『何だ? 画像が歪んだぞ』
「あれ、隊長の方もですか?」
 ミシェルは首を捻った。
 自分だけではなく、カケル側の回線にも異常が認められたらしい。
『嫌な感じだな。後で通信会社に文句を言ってやる! ああ、いや……言っても無駄かもな。もしかしたら、これもマザーコンピュータ故障の影響かもしれんしな』
 何か思い当たる節でもあるのか、カケルは急に深刻な表情を湛えた。
「マザーの故障って、何ですか?」
『補佐官のくせに知らないとは驚きだな。二、三日前、連邦政府のマザーコンピュータが故障した、ってニュースで言ってたぞ。システムの一部がフリーズして、銀行や通信会社で通常業務が一時的に麻痺したらしい』
「今、初めて知りました」
 ミシェルは無知な己れを恥じ、僅かに顔を俯けた。
「地球のマザーコンピュータって、スイスのジュネーブにあるやつですよね?」
 地球連邦政府の主要機関は、全てスイス・エリアに集結している。当然、マザーコンピュータもそこに設置されているはずだ。
 地球の全管理を任されている、スーパーニューロコンピュータ――マザー・オブ・ジ・アース。
 創り手である人類の頭脳を遙かに凌駕した処理能力を持つ、中枢コンピュータ。
 人間同様の思考回路を持ち、人間と同じように日々成長し、進化し続ける、巨大で複雑怪奇なモンスターコンピュータだ。その全容は優に巨大ビル十棟分にも及ぶ。
 政府機関はもちろんのこと、軍部や警察、大企業などのメインコンピュータも、このマザーに繋がっている。一般市民の給料振り込みや個人情報の整理、交通機関の信号、銀行のATM、衛星通信や有線通信などの通信回路、無人メトロの操作――その他、多種多様なシステムは、つまるところ全てマザーに連結されているのだ。
 マザーコンピュータに異常や故障があれば、当然、様々なことに支障が出てくる。
『そう、マザーの一部がフリーズしたんだ。原因は不明。修復の目途も立っていない。結局、サブ・コンピュータにフリーズした機能の代役をさせたらしい。けど、この通信状況じゃ、またすぐにフリーズするかもな』
 訥々と述べて、カケルは肩を竦めた。
 その姿が、また横縞に邪魔されて不鮮明になる。
「スクルドの警報異常も、それが原因でしょうか?」
『いや、違うだろ。宇宙船は、地球に停泊している時間より、宇宙に出ている時間の方が圧倒的に長い。地球のマザーと繋がっていても仕方ないだろ。無意味だ。だから、全宇宙船のメインコンピュータは独立してる』
「あ、そっか……。う~ん、スクルドは本当にどうしちゃったんでしょうね?」
『行ってみれば解るだろ。――とりあえず、俺はもう出るぞ。また後でな』
 淡然と別れの挨拶を述べ、カケルは通信を切った。
 ミシェルもコンソールパネルのスイッチを押し、モニターを消す。
「何だか、わたしたちの調査隊も地球も妙なことになっちゃったみたい」
 溜息混じりに告げ、ミスミを振り返る。
「ごめんね、ミスミ。地球に来たばかりなのに、また宇宙生活に逆戻りだわ」
「ボクは平気だよ。仕事してるミシェルも大好きだしね」
 ミスミが屈託なく微笑み、ミシェルの額に軽く口づける。
「ありがとう。――さっ、今度こそ朝食平らげて、出かけましょう!」
 ミシェルは照れ隠しに弾んだ声をあげ、勢いよくソファから立ち上がった。


     *



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.06.23 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。