ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 家の近くで無人タクシーを拾い、長期航海に備えた大荷物を後部座席に放り込むと、ミシェルは運転席に陣取った。
 ミスミは、助手席で物珍しげに周囲の景色を眺めている。
 無人タクシーは便利な移動手段だ。運転席にあるコンソールパネルで行き先を指示すれば、後は勝手に最短ルートを探し、勝手に走行してくれるのだ。無論、道路交通法もきちんと守ってくれる。
 ミシェルたちの乗ったタクシーは、シンバシからシナガワへと続く幹線道路――ルート15を順調に進んでいた。
 だが、シナガワ・ステーションを目前にして急にその動きを止めた。
 渋滞に引っかかったのだ。
「やだ、渋滞だわ。これだから、朝の陸路は嫌なのよね」
 シナガワに近づくにつれ車の流れが滞り始めたことに気づいてはいたが、まさか渋滞にはまるとは思ってもいなかった。その前に、シナガワ・ステーションに辿り着くだろうと踏んでいたのだ。
「通勤ラッシュなんて、最悪。しょうがないわね。ここで降りるわよ、ミスミ」
 ミシェルは胸ポケットからIDカードを取り出すと、コンソールパネルの脇にあるスロットにそれを挿し込んだ。これで、ミシェルの銀行号座から自動的にタクシー料金が引き落とされるはずだ。
 カードをしまうと、ミシェルはタクシーを降りた。
 後部座席から荷物を引っ張り出し、歩道へ移動する。
「ここから歩くの?」
 ミシェルの手からスーツケースを一つ取り上げながら、ミスミが問う。
「そうよ。調査局の港は、すぐ近くなの」
 辺境調査局専用の港は、シナガワ・ステーションの真裏に位置している。
 何世紀も前に干上がり、広大な砂漠と化した東京湾――特殊な薬品で固めた砂の地盤の上に、調査局宇宙船専用港は設けられているのだ。
 幸い、ここからなら徒歩でも十分足らずで到着することができる。
「渋滞抜けを待つより、歩いた方が早いわ。ホラ、あの駅の裏が港――」
 片手で地上百メートルの高さにあるシナガワ・ステーションを指差したところで、ミシェルは不意に言葉を失った。
 口を開けたまま、愕然と駅を凝視する。
 いつもなら物凄い速度で行き交っている高速リニアが、駅のホームに停車している。
 それも一台だけではない。何台ものリニアが、動く気配を微塵も見せずに停まっているのだ。
 車内の照明は灯されていない。それどころか、駅自体の照明も一つとして灯されてはいなかった。
 異様な光景だ。
「今日、ストライキだったかしら?」
 釈然としない気持ちで、ミシェルは視線を陸路へ戻した。
 その瞬間、またしてもおかしな光景に出会す。
 ミシェルの前方――近くの交差点で、不吉な黒煙が立ち上っていた。その周囲に、数多の野次馬たちが群がっている。
「何……? 通勤ラッシュじゃなくて、事故だったの?」
 表情を曇らせ、交差点を注視する。
 そして、ミシェルは信号のランプが点いていないことに気がついた。
 交通機能が混乱したために、事故が勃発したのだろう。
「リニアも信号も、マザーのフリーズが原因ってこと?」
 直ぐ様、街の変異理由に思い至り、ミシェルは眉をひそめた。
 政府首脳陣が科学技術を過信し、地球の管理をマザーコンピュータ一つに任せたりするから、こんな馬鹿げた事態が巻き起こるのだ。
 無人タクシーを降りたのは正解だったのかもしれない。
 この分だと、コンピュータで遠隔操作されるタクシーの機能が停止するのも、時間の問題だ。
「ミシェル、ここ危険。早く行こう」
 ふと、ミスミが不安げにミシェルの服の袖を引っ張る。
「そうね。スクルドに行かなくちゃ」
 ミシェルは一つ頷き、荷物を持ち直した。
 顔を上げ、前方を見据える。
 晴れた空に銀色の光点を発見したのは、その時だった。
 太陽の光を受けて銀色に輝く物体が、幾つも宙に浮かんでいるのだ。
 ――宇宙船だわ!
 そうと察した瞬間、胸に嫌な予感が芽生えた。
 反射的にシンジュクのある方角へと首を巡らせて、ミシェルはまた胸騒ぎを覚えた。
「何……なのよ?」
 掠れた声が唇から洩れる。
 辺境調査局本部を含め、ニッポン・エリアにおける軍事機関が密集するシンジュク。
 その上空に、幾つもの小型宇宙船が浮かんでいた。
 軍幹部の私用船であることは、容易く想像できる。
 彼らは地球を離れ、宇宙へ旅立とうとしているのだ。
 現在、マザーコンピュータの故障という、地球にとっては甚大な問題が発生している。
 だが、それだけの理由で、軍の要職たちが地球を離れるとは思えなかった。
 彼らは、何かを隠している。
 そして、それを民間人に報せることなく、自分たちだけ地球を離れようとしている。
「何が起こってるっていうの?」
 さっぱり事態が把握できない。
 ただ、軍上層部が民間人を見捨て、地球から離脱しようとしている事実だけは漠然と呑み込めた。
「ミシェル、ここ危険!」
 突如として、ミスミが立ち尽くすミシェルの腕を乱暴に揺さぶる。
 ミシェルはハッと我に返り、上空から視線を引き剥がした。
 刹那、大地が揺れた。




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2009.06.23 / Top↑
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