ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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     Ⅶ



 目を醒ました時、世界は変わり果てていた。
 長大な高架は見事に崩れ、瓦礫の山と化している。
 林立していた高層ビル群の姿は、何処にも見当たらなかった。
 人類が築き上げてきたもの全てが――崩壊していた。
「……ちく……しょう」
 誰に対するものでもない罵りが、自然とミシェルの唇から洩れた。
「ミシェル、気がついたの?」
 安堵と歓びの入り混じったミスミの声が、間近で聞こえる。
 ひんやりとした手が、ミシェルの手をしっかりと握っていた。
「ちくしょう――生きてやる!」
 ミシェルはミスミの手を握り返し、渾身の力を込めて上体を引き起こした。
 途端、頭部に鈍痛が走った。顔をしかめ、苦痛の呻きを洩らす。
「急に起きたらダメだよ!」
 ミスミが慌ててミシェルを抱き留める。
「大丈夫。わたし、生きてる。ちゃんと生きてる。痛みが何よりの証拠よ」
 ミシェルは頭痛を堪え、笑顔を作った。
 ミスミの頬に軽くキスし、彼の身体をそっと引き離す。
 改めてミスミを見つめ、ミシェルは急に泣きたくなった。
 ミスミの顔に、腕に――全身にたくさんの怪我を発見した。白い肌に刻印された裂傷や擦り傷から、透明な液体が流れ出している。透明な雫は、人間の血液に相当する体液なのだろう。
「酷い怪我……。わたしを庇ってくれたのね」
「平気だよ。アクア人は、人間に比べると傷の治りが早いんだ。心配いらない」
 ミシェルを安心させるようにミスミが微笑する。
「護ってくれて――ありがとう」
「女の子を護ってあげるのは男として当然のことだ、ってカケルが言ってた。それが自分の大切な人なら尚更だって。護るべきものは、自分の手でしっかりと護り抜く。結果として、自分が死んでも潔しとする。それが《ニッポンダンジ》なんだってさ」
「ハハハ、日本男児、ねぇ……。そういえば、隊長はニッポン・エリアの出身だったわね。三十世紀を間近に控えても、大和魂健在ですか……」
「ヤマト……ダマシイ……? それ、知らない。今度、カケルに教えてもらう。――っと、今はそれどころじゃないね。ミシェル、ホントに大丈夫? 赤い水、たくさん出てる」
 ミスミに指摘されて、ミシェルは自分も彼に負けず劣らず負傷している事実に気がついた。
 身体の随所に擦り傷や切り傷ができ、血を滴らせている。手足には打撲の痕があるが、骨は折れていないようだった。ちゃんと動く。
「骨折はしてないみたいだし、まだまだ自力で歩けるわ」
 高架を越えた旧東京湾――砂漠地帯に高層ビルは存在しない。調査局の港を含め、殆どの土地が大企業や政府機関などの宇宙船専用港で埋め尽くされているのだ。
 大地には縦横無尽に亀裂が走っているが、建造物の倒壊は見受けられない。高層ビルがないことが幸いした。おかげで瓦礫の下敷きになることもなく、自分とミスミは生き延びている。
「港まで、もう少しよ。頑張りましょう!」
 ミシェルは自らを奮い立たせるように、腹の底から声を張り上げた。
 全身に蔓延する痛みに負けじと、歯を食いしばり立ち上がる。
 ミスミの手を取ったところで、ミシェルは思い出したように表情を引き締めた。
「さっき言ってた日本男児のことだけど――ミスミはアクア人なんだから真似しちゃダメよ。自分が死んでもいい、なんて考えないで。それで護られても嬉しくないわ」
「ミシェル……?」
「わたしたち、二人とも生き残るのよ。生き抜いて、ハッピーエンドを迎えるの」
「それって、幸せになるってこと?」
「そうよ。だから今は、生きることを真っ先に考えて。――さっ、スクルド目指して出発よ!」
 ミシェルが朗らかに笑うと、ミスミも釣られたように微笑んだ。
 ミスミの手がしっかりと自分の手に繋がれる。
 ほぼ同時に、繋いでいない方の左腕で何かが振動した。
 驚いて、手首に視線を落とす。
 ブレスレットが小刻みに震えていた。
 着信合図だ。



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2009.06.24 / Top↑
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