ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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『……ミシェル! 今、何処だ?』
 ブレスレットからカケルの声が流れてくる。
 数時間前に聞いたはずのカケルの怒鳴り声が、妙に懐かしく感じられた。
『オイ、聞こえてるのか? まさか、くたばったんじゃないだろうなっ!?』
 耳をつんざくような叫びを聞き、ミシェルは思わず苦笑していた。
 左腕を上げ、ブレスレットを口元に引き寄せる。
「残念でした。まだ死んでません」
『――みたいだな』
「ところで隊長、通信機のこと覚えていてくれたんですね」
『たまたまだ。誰かに悪口を言われてるような気がして、おまえのことを思い出し――』
「悪口なんて言ってません!」
 ミシェルはカケルの声を遮り、ふくれっ面を作った。
 ――どうして、うちの天の邪鬼隊長は素直に喜べないのかしらね……。
 内心で溜息をつき、ミシェルは改めてブレスレットに向かって口を開いた。
「それに、わたし、まだまだ死にませんよ。今、決めたんです。ミスミの子供を産むまでは、絶対に死なないって! たくさん子供を産んで、いつかミスミと一緒にアクアに住むんです。あの碧い楽園で、静かで穏やで幸せな老後を送るんです!」
 興奮気味に言葉を捲し立てると、カケルからは重苦しい溜息が贈られてきた。
『……オイ、今は俺に向かってミスミへの想いの丈を告白してる場合じゃないだろ。おまえの気持ちはよーく解ったから、早くミスミを連れてスクルドに来い!』
 カケルのいつもと変わらぬ怒声を聞き、ミシェルは妙に嬉しくなってしまった。異常事態に際しても、動じた素振りを感じさせない主人が頼もしい。
「了解。隊長は、もうスクルドなんですね?」
『もちろん。民間人の誘導で船内は大忙しだ。だから、早く合流しろ。今、港に近い場所にいるんだろ?』
「はい。そうですね、えーっと、ここは……」
 ミシェルは自分の位置を確認するために、四方に首を巡らせた。
 目を凝らし、遠くを見つめる。
 そこで、異変を発見した。
 遙か遠くの空に、暗雲が立ちこめ始めている。
 灰色の分厚い雲が、次から次へと空にわき出しているのだ。
「た、隊長! 遠くに物凄い噴煙が見えるんですけど、何ですか、アレ!?」
『あっ? ちょっと待ってろ。今、モニターで確認する』
 カケルの怪訝そうな声。
 訪れる沈黙。
『オイ、マズイことになってるぞ。グズグズしてないで、さっさとスクルドに乗れっ!』
 次に聞こえてきたカケルの声には、緊張と焦りが含まれていた。
『あの方角は富士山だ。急げ!』
「フ、フジサン……?」
 一瞬、ミシェルはカケルが何を言おうとしているのか理解できなかった。
『富士山――マウント・フジだ! ニッポンの火山だ!』
 もどかしげなカケルの声を聞き、ミシェルはようやく事態の重大さに気づいた。
 一気に心が緊迫する。
「も、もしかして、噴火するんですかっ!?」
『かもしれん――というか、あれだけの噴煙だ。もう小さな噴火は起こってるだろ。とにかく急げ、ミシェル!』
「了解!」
 ミシェルは慌ててミスミの手を引き、港を目指して駆け出した。
 富士山は、ここ五百年ほど眠りに就いていたはずだ。
 しかし、今、その永き眠りから醒めようとしている。
 先刻の激震は、富士山噴火の前兆だったのかもしれない。噴火前にあれほどの地震を引き起こしたのだ。それを考慮すると、本格的な噴火の規模はとてつもなく大きいと予測される。
 大爆発――甚大な天災だ。
 大噴火後の惨事は、想像を絶するものになるだろう。
 火砕流や土石流はトーキョーにまでは及ばないだろうが、大きな地震がこちらにまで被害をもたらすことは充分に考えられる。
 自分たちを含め、この辺りを彷徨う人々が助かる術は一つしかない。宇宙船で地上を離れる以外に、生命を護る手段はないのだ。
 視界には、青銀に輝くスクルドの船体が見えている。
 ――こんなところで死にたくない。わたしは、いつの日かきっとミスミと一緒に再びアクアを訪れるのよ!
 ミシェルは歯を食いしばりながら、胸中で何度何度も己れにそう言い聞かせた。


     *



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2009.06.24 / Top↑
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