ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「遅いぞ、ミシェル!」
 真っ先にカケルの声が耳に飛び込んできた。
 彼は、半円を描く雛壇の頂上からミシェルを見下ろしていた。
 カケルの隣――船長席にはラギが座り、その真横のコンピュータの前にはクリスが座している。
「遅れてすみません。只今、到着しました」
 ミシェルは階段を昇りながら微笑を浮かべた。
 見知った人物、見慣れた光景が、途轍もなく心強く感じられる。
「ミシェル補佐官、無事だったのね」
 船長席の一段下の階で、レイラが喜びの声をあげる。彼女の隣には、補佐官であるジーンが控えていた。レイラと同じ年頃の利発的な美女だ。
「二人とも酷い怪我だわ。ジーン、応急手当をしてあげて」
 レイラがミシェルたちを見て眉をひそめ、ジーンを振り返る。
 直ぐ様、ジーンが救急箱を片手に駆け寄ってきた。
「手当てなら後からでも大丈夫よ。今は、わたしも何か手伝いを――」
 ジーンに向かって慌てて手を振ったところで、ミシェルは頭に衝撃を感じた。
 反射的に手を伸ばし、衝突した物体をキャッチする。ミネラルウォーターのペットボトルだった。
「手当てくらいしてもらえ」
 ペットボトル片手に頭上を仰ぎ見ると、一段高い場所からカケルがこちらを覗き込んでいた。
「随分と酷くやられたもんだな」
 ミシェルとミスミを交互に眺め、カケルが渋い表情を湛える。そう言うカケルの額にも包帯が巻かれ、右腕は肩から吊られていた。
「腕を折ったんですか?」
「大したことはないから、早く手当てしてもらえ。ミスミはこれで何とかなるだろ」
 カケルが口元に微笑を刻み、更にペットボトルを落としてくる。
「ありがと、カケル!」
 ミスミは嬉しそうに声を弾ませ、落とされたペットボトルに手を伸ばした。
 次々と蓋を開け、中の水を物凄い勢いで呑み干してゆく。
 彼が体内に水を取り入れる度に裂けた傷口が塞がってゆくのを、ミシェルは唖然と眺めていた。一緒に暮らすようになってからも、依然としてアクア人の生態は不可解だ。
「すぐに応急処置しますね」
 ジーンが素早くミシェルの傷を消毒し、薬剤を塗布し、包帯を巻いてゆく。
 その間、特別することもなく、ミシェルはブリッジ内を見回した。
 妙に静かだと思ってみれば、自分たちの他に船員は存在していなかった。ラギとレイラ――最小限の人員を残し、他のクルーたちは民間人の誘導に回っているのだろう。
「とりあえず、大きなものだけ処置しておきました」
「それだけで充分よ。ありがとう!」 
 ジーンに礼を述べ、ミシェルは身を翻した。まだ水を呑み続けているミスミをその場に残し、船長席へと駆け上がった。
「やあ、ミシェル。君が無事で良かったよ」
 ラギがミシェルに視線を流し、軽く笑む。
 その顔には疲労の影が張りついていた。彼は昨夜から一睡もしていないのだ。その上に、この非常事態だ。疲れは既にピークを越えているのかもしれない。
「昨夜からの緊急出勤が幸いしたのかな? おかけで、スクルドはいつでも飛び立てる状態だ」
 揶揄混じりに告げ、ラギが唇を歪める。
「急な出航命令もな。理不尽な指令だったけど、早朝のうちにみんなに伝令を出しておいて正解だった。スクルド勤務の奴らは、全員ここに乗り込んでる」
 淡々と告げるカケルだが、その表情は冴えなかった。
 確かに、スクルドの船員や辺境調査局員らは、全員無事に乗船したのだろう。
 しかし、出航は三日後だった。船員たちが出勤時に家族を同伴してこなかったのは明白だ。ニッポン・エリアに実家のあるカケルも、誰か家族を家に残してきたのかもしれない……。
 異常事態が発生したのだから仕方がない、ときっぱり割り切ることなどできない。辛い出来事だ。大勢の民間人が助けを求めている今、残された家族の無事を心の中で祈ることしかできないのだ。
「そういえば、結局スクルドの警報は何だったんですか?」
 ふとミシェルは思い出し、首を捻った。
「どうやら、この凄まじい天災を予期してのことだったようです」
 コンピュータ・ディスプレイに顔を向けたまま、クリスが応じる。
「スクルドに内蔵されているのは、高い知能を持つスーパーニューロコンピュータです。先ほど調べ終えたのですが、スクルドのメインコンピュータは独自に情報収集活動を行っていたようなのです。その際にマザーにも不法アクセスし、この天変地異を察知したらしいのです」
「マザーにハッキングかけるなんて随分大胆な性格なのね、スクルドは」
 ミシェルは半ば唖然としながら呟いた。
 独自判断で勝手にマザーに侵入するとは、いい度胸だ。
「ハハ……。そういや、うちの母親、気が強くて大胆で好奇心旺盛な冒険家だったな」
 ラギが乾いた笑い声を立て、困ったように人差し指で頬を掻いた。
「なるほど。そういう風に形成された人格が、好奇心からマザーをハッキングし、地球の危機を察知し、ラギや乗組員を護ろうと必死で警報を鳴らしたわけだ」
 納得したようにカケルが頷く。
 直後、クリスが厳しい表情でこちらを振り返った。
「富士山が本格的な噴火を開始しました」
「一体どうなってるんだ、ニッポン・エリアは?」
「船長、ベイラから通信が入りました!」
 渋面で呟くラギの声に、緊迫したレイラの声が被さる。
 間を措かずに、ブリッジ中央に設えられた巨大モニターに一人の男性が映し出された。ベイラの船長だ。
『ラギ船長、ベイラは飽和状態です。申し訳ありませんが、スクルドの方に残りの民間人を乗せていただけないでしょうか?』
 ベイラの船長が厳めしい面持ちで述べる。
 ベイラはスクルドよりも一回り小さい宇宙船なのだ。当然、定員オーパーになるのはスクルドよりも早い。
「了解。こっちはまだ余裕があるので安心して下さい。富士山が噴火したそうです。大きな地震が予測されますから、早々に出航して下さい」
『ありがとうございます。では、ラギ船長、再び宇宙で――』
 短く挨拶を返し、敬礼すると、ベイラの船長はモニターから姿を消した。
「レイラ、民間人の誘導を急がせてくれ!」
 ラギが早口で指示を飛ばす。
「了解。モニターの方、第一ゲートの映像に切り換えておきます」
 レイラの声と共に、モニターにゲートの様子が映し出される。
 ゲート近辺は、未だに多くの人々で埋め尽くされていた。飛翔するベイラを見て、慌ててこちらに駆けつけてきた者たちもいる。
「オイ、大丈夫なのか?」
 カケルが心配そうにラギを見遣る。
「居住エリアと娯楽エリアに詰め込めば、一万五千くらいは乗せられるさ。――っと、地震が来たみたいだ! 冗談じゃない!」
 ラギが急に声を荒げる。
 宙に浮いているスクルドの内部では、揺れは微塵も感じられない。
 だが、モニターに映る人々は絶叫していた。
 激しい揺れにバランスを崩し、地に転がる大勢の人々……。
 紛れもなく、外界では地震が起こっているのだ。
「レイラ、もっと急がせろ! 何が起こるか解らない状態だ。民間人を乗せたら直ちに出航し、大気圏外に退避だ!」
 いつもの軽い口調からは考えられないほどの激しい声音で、ラギが叫ぶ。続いて、
「大雪山、駒ヶ岳、八甲田山――噴火しました!」
 クリスの悲痛な声がブリッジに谺した。彼はコンピュータに強張った表情を向けている。スクルドのメインコンピュータが集めてくる情報を、逐一チェックしているのだろう。
「一斉に噴火? 何なのよ、それ」
 ミシェルは不気味な事態に戦慄を覚え、慌ててクリスの傍へ駆け寄った。
 メインコンピュータに繋がる端末のディスプレイを覗き込み、慄然とする。
 得も知れぬ恐怖が、臓腑の辺りから迫り上がってきた。
「蔵王山、磐梯山、男体山、浅間山、乗鞍岳、白山、阿蘇山、霧島山――その他にもたくさん噴火してるじゃない。ニッポン中の火山が一斉に噴火って、そんな馬鹿なことあるのっ!?」
 悲鳴のような叫びが口から飛び出す。
 信じられない出来事だった。



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2009.06.24 / Top↑
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