ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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  エピローグ



 宇宙の大海原が広がっている。
 ミシェル・ギルフォートは、メインブリッジの巨大な窓に張りつくようにして、眼前に広がる宇宙空間を眺めていた。
 期待と不安で、胸は張り裂けんばかりに高鳴っている。
 宇宙を見つめる眼差しには、自然と力が籠もった。
「ミシェル、怖い顔してるぞ」
 ふと、隣に立つカケルが唇の端を吊り上げてニヤリと笑った。
 ミシェルは彼に抗議しようと口を開きかけて――思い直した。視界の端を黄金色に輝く物体がよぎったからだ。
 長い金色の髪を靡かせて、小さな女の子がブリッジ内を元気に駆け回っている。
「パーパ! パパ・ラギ、遊んで!」
 船長席に座しているラギを見上げ、少女が無邪気に告げる。
「残念。船長は今、大忙しなんだ」
 ラギが笑いながらヒョイと肩を聳やかす。
 途端、少女は不服げに頬を膨らせませた。その視線がラギの隣に立つクリスに向けられる。
「じゃあ、パパ・クリス、遊んで!」
「今は無理です。目的地に到着したら、いくらでも遊んでさしあげますから、それまでは我慢して下さい」
 クリスにも鄭重に断られ、少女はますます頬を膨らませた。
「つまんなーい! いいもん、パパ・カケルに遊んでもらうからっ」
 不満に頬を紅潮させ、少女が小さな身体を翻す。
「リュミナ、お仕事の邪魔をしちゃダメよ」
 ミシェルは走り寄ってきた少女の頭に手を乗せ、軽く窘めた。
 少女――リュミナが碧い瞳でミシェルを見上げ、渋々と頷く。
「……ハーイ。リュミナ、いい子にしてる。パパ・カケル、抱っこして!」
 リュミナがカケルに向かって催促するように両手を差し出す。
「オイ、この呼び方、どうにかならないのか? 絶対に変だぞ」
 リュミナを軽々と抱き上げながら、カケルが口元を引きつらせる。
「諦めて下さい。気に入っちゃったみたいで、何度注意しても直りません。――いいわね、リュミナはたくさんパパがいて」
「うん! リュミナ、パパたち、みんな大好き! もちろん、ママのことも大好きよ」
 ミシェルがリュミナの金髪を撫でてあげると、少女は嬉しそうに笑った。
「ミシェル、そろそろ地球が見えるよ」
 ラギの声がブリッジに響く。
 ミシェルは慌てて視線を窓へ戻した。
 辺境調査局第七調査隊は、宇宙船スクルドで地球へ向かっている最中なのだ。
 火山の一斉噴火による地球大崩壊から、五年――
 崩壊後、初の地球調査を任命されたのが、カケル・アマミヤ率いる第七調査隊だった。
 五年前に一度死滅した惑星――地球。
 だが、その地球が目覚ましい勢いで甦りつつあるというのだ。
 月基地からもたらされた報告は、人類を驚愕させた。
 壊滅して一年も経たないうちに、惑星内に忽然と一つの海が生まれた。
 海は驚異的な速さで広がり、今では地球の三分の二を覆ってしまったというのだ。
 その事実を確かめ、原因を究明するために、軍は調査隊の派遣を決定した。
 そして今、その任を負った第七調査隊はスクルドに乗り、地球へと接近している。
 この任務は、カケルがミシェルのために強引に勝ち取って来てくれたものだ。
 地球には、ミシェルの愛する人が眠っている。
 生きて、今もなお海を創り続けている。
「ママ、星が見えるよ!」
 リュミナの声に、ミシェルの心臓は一際大きく脈打った。
 広大な宇宙の中に、碧い輝きを発見した。
 鮮やかなブルーが、ミシェルの胸に懐かしさと愛しさを呼び起こす。
 碧い輝きに包まれた美しい惑星――水が明澄な煌めきを放つ楽園だ。
 その星は、五年前に訪れた惑星アクアにとてもよく似ていた。
 生まれ変わった地球の姿を見て、ミシェルは不意に泣きたい衝動に駆られた。
「ミスミ……」
 唇から掠れた声が洩れる。
「綺麗! 綺麗だね、ママ」
「ええ、綺麗ね……。とても綺麗だわ」
 ミシェルが泣き笑いの表情を向けると、リュミナは不思議そうに首を傾げた。
「ママ、泣かないで。リュミナね、この星、知ってるよ。リュミナ、ここで生まれたの!」
「――今、何て言ったの?」
「リュミナ・キシェ。リュミナと同じ名前なの。リュミナ・キシェ――女神の海だよ!」
 リュミナがはしゃいだ声をあげる。
 ミシェルは信じられない思いでリュミナを凝視した。
 リュミナ・キシェ――アクアの言葉。
 アクアの言語など、リュミナに教えた覚えはない。
 しかし今、リュミナははっきりとアクアの言葉を喋った。
 リュミナの身体に流れる、奇蹟の種族の血がそうさせたのだろうか?
 ――ミスミ、あなたの娘はちゃんと水の楽園を覚えてるわ。
 ミシェルはカケルからリュミナを受け取り、その小さな身体を抱き締めた。
「リュミナ・キシェ! リュミナ・キシェ!」
 その言葉が気に入ったのか、リュミナは嬉しそうに何度も繰り返す。
 ミシェルは無意識に片手を胸元へ伸ばしていた。
 ――いつか話そう。
 首飾りの先端にぶら下がる碧い石をひしと握り締める。
「リュミナ、見て。あの碧い星には、あなたのパパが眠ってるのよ」
 ミシェルは地球に視線を馳せた。
 途端、脳裏に五年前の様々な出来事が甦ってきて、胸がキリキリと締めつけられた。
 碧く輝く惑星は、愛する人の澄んだ瞳を想起させる。
 ――リュミナが大きくなったら、この首飾りを渡し、ミスミのことを話そう。
 ミスミと出逢った場所――美しい水の惑星の話をしてあげよう。
「パパ? 海で生まれた、ホントのパパのこと?」
「ええ。ママにリュミナを授けてくれたパパのことよ」
「じゃあ、あそこに行けばパパに逢えるの?」
「きっと逢えるわ。だってママ、パパと約束したもの」
 ミシェルは娘に笑顔を向けた。
 甦った地球は、ミスミそのものだ。
 ミスミが生んだ海に包まれているのだから……。
 地球は息を吹き返した。
 ミスミから生まれた海には、やがて新しい生命が誕生するだろう。
 たくさんの生命が育まれ、進化し――新しい地球を築いてゆくのだ。
 ――ミスミは海に還り、この星で生き続けている。
 ミシェルは生まれたばかりの水の惑星に向けて、心からの笑みを贈った。



 ただいま、ミスミ。
 帰ってきたわ。

 マリンブルーの楽園へ――



                     《了》



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 ◆マリンブルーの楽園外伝 「FATE」 


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2009.06.24 / Top↑
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